第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OR-3] 一般演題:教育 3

Sun. Nov 12, 2023 8:30 AM - 9:30 AM 第5会場 (会議場B2)

[OR-3-4] 「探究」の質を高めるための自分自身を知ることと他者と話し合うことの可能性

織田 靖史, 池内 克馬, 坂本 千晶, 増田 久美子 (県立広島大学保健福祉学部保健福祉学科作業療法学コース)

【はじめに】養成教育では,臨床過程に重なる「探究学習」は重要である.探究学習は,自ら課題を設定,解決への情報の収集・整理・分析,他者と意見交換・協働により進める.今回,臨床実習における探究学習の質を高めるために自身を知り,他者と対話する取り組みを新たに実施したため,その実践を報告する.なお,本報告について参加者の同意は得ている.
【方法】4年生の総合臨床実習のオリエンテーションとして,ルーブリックによる総括的目標の説明に加え,学生個人の成長を形成的に評価する個人目標の設定を実施した.その手順は,①東大式エゴグラムと自己教育力測定尺度を用いた自己理解の促進,②ワールドカフェを用いた対話,③実習終了時までの目標や途中経過での目標やその評価指標,及び自己の取り扱い説明を記載する独自のシートによる個人目標の設定だった.なお,東大式エゴグラムは5つの自我状態を測定する質問紙であり,自己教育力測定尺度(西村,1995)は自己の成長性と自学自習の力を「成長発展への志向」「自己の対象化と統制」「学習の技能と基盤」「自信・プライド・安定性」の4項目で評価する.ワールドカフェは,4回の話し合いを「理想の作業療法士の条件」「理想の作業療法士になるために」「理想の作業療法士に向けて実習で取り組むこと」「実習での目標の達成度合いをどう評価するのか」というテーマで実施した.
 次に効果判定は,実習終了後に個人目標の達成度,実習有意義度,実習満足度を1~5(5:大変満足 4:ほぼ満足 3:ふつう 2:やや不満 1:とても不満)の5件法で調査し,本取り組み未実施の前年度学生と比較した.また,実習についての感想を自由記載で調査し,質的帰納的に分類した.なお目標達成度については,本取り組みが本年度からの実施のため昨年度との比較はできていない.
【結果】回答者は,本年度30名中24名で回答率は80%だった.昨年度は,31名中29名,94%だった.目標達成度は,5が1名(4%),4が19名(79%),3が4名(17%)だった.有意義度は,本年度-昨年度で5が19名(79%)-23名(79%),4が5名(21%)-6名(21%)だった.満足度は,本年度-昨年度で5が8名(33%)-5名(17%),4が11名(46%)-16名(55%)であり,3が3名(13%)-2名(7%),2が2名(8%)-6名(21%)だった.
個人の感想では,「目標の8割程度達成できた」などの具体的な自己評価による学修状況の把握,「目指したいOT像が見つかった」などの将来の目標となるイメージの確立(羅針盤),「関わりを大事に行動でき,常に何ができるか,何が必要かを考えた」などの目標設定や協業,協働によるアクティブラーナーである自己を意識すること,さらに「自分自身のクセを知り,今後に活かせる」などの自身の事を知ることで『自己課題』につながる,「患者さんのいる場所での経験は貴重である」という臨床現場や対象者が住むコミュニティに『参画』する,「こんな方法もあるんだと違う方面で学びを深められた」という主観的体験を通じて考え『運用』するなどが挙がった.一方で少数だが「積極的に動けなかった」などの受け身的な学習者となることの危険性もあった.
【考察】文科省は,探究の実践には学習者自身が自らに関連する問いを立てることが重要とする.自らに関する問いを立てるには,自分自身を知り,他者との対話により考えを広げることが重要である.今回,昨年度より実習の有意義度は変わらず満足度が上昇したのは,学生自身の形成的な目標設定の実施により学生自身の探究の実践が深まったことによる可能性が考えられた.