第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-5] 退院後の軽度脳卒中患者への再発予防教育の効果について

井本 裕堂, 宮本 晃江, 阿部 翔悟, 藤森 大吾 (医療法人社団緑成会横浜総合病院リハビリテーション部)

【背景】
 脳卒中患者の再発予防において,金居ら(2019)は身体活動量の促進が重要な因子になると報告しているように身体活動に言及した文献は多数見られるが,一方で予防教育において神経心理学的評価との関係性を示したものは少ない.当院では令和3年より急性期から直接,退院できた軽度脳卒中患者に対して,理学療法士による外来での再発予防教育を約3ヶ月間実施している.さらに自動車運転の再開希望者には,医師の指示により,作業療法士が神経心理学的検査を中心とした適性検査を実施している.今回,当院の軽度脳卒中患者に対して神経心理学的検査を実施し,再発予防教育体験の有る無しによる群分けを行って比較検討した結果,興味深い知見が得られたので以下に報告する.
【目的】
 退院後の再発予防教育が軽度脳卒中患者にどのような影響を与えるのかを検証すること.
【対象】
 平成28年9月から令和5年1月までの期間で,急性期の入院治療後に自宅退院し,当院外来にて自動車運転再開を希望して作業療法士による神経心理学的検査を受けた17名(男性14名,女性3名)を対象とした.疾患名はアテローム血栓性脳梗塞11名,心原性脳塞栓症1名,脳出血3名,くも膜下出血2名.病巣別は右半球7名,左半球9名,両側1名であった.そのうち10名は退院後の再発予防教育を受けており(有る群),受けていない患者は7名であった(無し群).今回の研究で対象者の条件として,初発の脳卒中発症者で,発症から約1~3ヶ月経過していること,SDSA(Stroke Drivers’ Screening Assessment Japanese Version)は合格判定レベルであることとした.またADLに支障がある運動機能障害や認知症,失語症や失行症,左半側空間無視をもつ患者は除外した.倫理面において,本研究の目的及び方法を対象者に説明し,全員から同意を得ている.本研究は横浜総合病院研究倫理審査委員会の承諾を得ている.
【方法】
 再発予防教育の有る群・無し群の2群に分類し,年齢,性別,疾患名,病巣別,発症から検査までの期間,HDS-R(初期,最終),HDS-Rの変化量,MMSE(初期,最終),MMSE変化量,TMT-A(初期,最終),TMT-A変化量,TMT-B(初期,最終),TMT-B変化量,SDS(Self-rating Depression Scale)を比較調査した.有る群,無し群の2群において,統計学的手法としての連続変数については正規性をShapiro-Wilkの検定にて確認した.正規性を認めた年齢,発症から検査までの期間,TMT-A(初期,最終),TMT-B(最終),SDSは対応のないt検定を,その他の項目はMann-WhitneyのU検定を,また疾患名や病巣別,性別にはχ2検定を,2群間の差に対し単変量解析を実施した.有意水準は5%とした.
【結果】
 今回有る群と無し群で比較した結果, TMT-Bの変化量にて有意差を認めた(P<0.05).しかし,変化量は有る群(18.9±28.981秒)よりも無し群(88±61.892秒)の方で高かった.その他有意差は認めなかったものの,HDS-Rの変化量にて,無し群の方で軽度に低下を認めた.
【考察】
 TMT-Bの変化量の有意差は,初期TMT-Bの差が大きかったことの影響もあると考えられる.また,HDS-Rの変化量については,冨本ら(2013)は脳卒中発症1年以内に2〜4割の患者が認知症を発症し,再発予防や対照的治療が必要と報告しており,再発予防教育の必要性が考えられる.今後もサンプル数を増やし,研究を継続し再発予防教育の有用性と介入方法の検討を行っていきたい.