第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-5] ポスター:神経難病 5

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PE-5-2] 神経・筋疾患患者の電動車椅子サッカーチームの支援と今後の展望

伊藤 智絵, 加藤 佳子, 加登山 未帆, 舩戸 道徳 (独立行政法人 国立病院機構 長良医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】
 当院の患者で構成された電動車椅子サッカーチーム<wings>.デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下,DMD)や脊髄性筋萎縮症(SMA)等の神経・筋疾患患者が参加し,作業療法(以下,OT)場面で環境整備等の支援を行ってきた.患者より引退表明があり,今後のチームの方向性を決める支援が必要となった.今回,患者のモチベーショングラフ(以下,グラフ)を作成し電動車椅子サッカー(以下,サッカー)の活動の効果を考察し,今後の展望を以下に報告する.
【対象と方法】
・対象:チームに所属するDMD患者3名(平均年齢35.6歳),全例で機能障害分類 ステージⅧ,上肢機能障害度分類stage9以上.日常生活全介助,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)終日使用2名,夜間のみ使用1名,電動車椅子操作は上肢でのジョイスティック(以下,JS)操作2名,顎でのJS操作1名
・方法:幼少期から現在までの運動経験やサッカーに関するエピソードを聴取し,グラフを作成した.自己効力感を縦軸(−3〜+3),横軸は年齢変化の時間軸とした.
【結果】
(1)チームの変遷
2000年頃から活動開始.2018年頃から患者の高齢化による脱退,2020年COVID-19の流行により活動困難となる.
(2)患者3名の結果
<共通項>
小学生時代,体育は見学が多く運動経験が乏しかった.全例が10代でサッカーに出会い,参加を開始した.サッカーに参加している活動期,自己効力感は肯定的な傾向にある.身体的変化時,自己効力感は低迷傾向にあるが,活動期は一時的に肯定的に転じているケースが2例あった.全例,20代後半から30代にかけて選手として活動の限界を感じていた.サッカーが出来た経験に対して肯定的な感想が聞かれた.
<少数意見>
・人間関係の悩みで自己効力感が一時的に低迷するケースがあった.
・エピソードは出るものの自己効力感の数値化が出来ないケースがあった.
【考察】
 進行性疾患のDMD患者にとって,スポーツは主体的に参加することが困難な活動である.スポーツ経験が乏しい学齢期を過ごした彼らが青年期にサッカーと出会い,チームに所属して主体的に行動し,仲間と共通の目標に向かい切磋琢磨する経験は自己効力感を育てる貴重な機会であった.その一方で,プロのアスリートに選手生命があるように彼らにも活動の限界時期がある.DMDの疾患特性を踏まえ,呼吸機能障害や心筋障害,体幹・頸部の変形など様々な身体的負荷を考慮し,支援を行う必要がある.また,上田1)は「DMDの認知特性として情報処理の苦手さがあり,聴覚的よりも視覚的な情報の方が記憶しやすい.」と述べている.今回のグラフ作成は,各々がサッカーの体験を回顧し,チームの解散に向けて必要な項目を抽出し,チームの方向性を決める一助として有効な支援であった.今後,進行したDMD患者においても,患者が主体的に行動し,仲間と共有体験が出来るコミュニティー活動を継続出来るよう模索していきたい.
【参考文献】
上田幸彦.筋ジストロフィーの心理支援.IRYO Vol.71 No.10 2017 :409-413.