第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-6] ポスター:神経難病 6

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PE-6-3] クライアントの主体性を重視した目標設定と活動により生活が変化した症例

田中 大助, 深山 慶介, 山田 絵里香 (ちどりばし在宅診療所)

【はじめに】
進行性の神経難病を持ちながらベッド上で生活してきた症例が,訪問リハビリ(以下訪問リハ)の介入によりベッド外の活動に意識が向けられるようになった.そして「自分の強みを活かしてお金を稼ぎたい」と真のニードに気づき,行動変容にいたった経緯を以下に報告する.尚,本人に口頭および書面にて説明し同意を得ている.
【症例紹介】
A氏,50代女性.先天性ミオパチー.父,母と3人暮らし.姉と妹は結婚し,別世帯にいる.高校卒業後,区役所勤務となるが,同僚のいじめによりうつ病発症し退職.自宅に引きこもるようになり10年あまりが経過している.日中は常駐ヘルパー,夜間は巡回ヘルパーを毎日利用する生活.訪問看護では体調管理,訪問入浴も1/週利用している.そこに加えて,訪問リハがADL向上の目的で開始となった.
【評価・生活状況】
介入中の会話は痛みの報告が殆どで,部位や度合いについても不定(NRS:3~8).かかりつけの病院にて検査はするも原因は不明.処方薬は多く依存的.声掛けには受け身.スマホでゲームをしている時は痛み訴えが少ない.
【計画・介入】
就労中は出勤・外出できていたが,現在生活のすべてがベッド上で完結している.作業療法評価により痛みの原因を①不活動による神経過敏②変化のない生活による刺激不足③自己否定からくる身体表現性の痛みであると考えた.そこで①②に対して離床を促しオムツ内排泄をポータブルトイレにすることを提案.環境設定,動作訓練を行い,ヘルパー伝達も行った.活動領域を拡大し,成功体験を積み重ねていくことがの自己否定への介入になり,痛みの訴えも減るのではないかと考えた.
【経過・変化】
訪問リハ介入当初は痛みに対して徒手介入を求めるのみであったが,目標をポータブル排泄に切り替えていく過程で会話量も増えていき,症例が好きな事の話も徐々に出始めてきた.そして「友人の絵画教室を手伝いたい」「お金を稼いで納税したい」という自身の思いを語るようになってきた.症例にとって主体的な希望をOTに話せることは大きな変化であると考え,目標を「絵画教室を手伝うための車椅子乗車」に再設定し,W/C離床を短時間から始めることとなった.さらに「強みを活かしてお金を稼ぐにはどうすればよいか」症例と話し合い,絵や占いの依頼窓口,拡散目的にてTwitterアカウントを作成した.現在Twitter経由で占いやイラストの依頼は増えてきており,自分の才能でお金を得るという成功体験を重ね,それに伴い痛みの訴えも減少した(NRS:0~3).
【考察】
今回ひきこもりとなりベッド上生活を余儀なくされていた50代の女性を担当した.職場でのいじめを機に退職し,自分は社会にとって不要な存在だと自己否定を強めた生活をしていた.そのため自己肯定感が低く,失敗の度に自分の殻にひきこもることが多かった.今回訪問リハビリの介入で自己に内向きに向かっていた意識が,長期間のオムツ排泄からポータブル排泄になった事をきっかけに外に向くことで,症例は痛みの部位を探さなくなった.結果痛み止めの内服は減少し,より自分らしい生活の獲得に至ったのではないか.さらに,友人の絵画教室で得た人から必要とされる体験は,症例の自己肯定感の高まりに繋がり,次の目標に向かう活力となった.訪問リハの強みは,生活の場で課題に取り組みトライ出来ることであり,その課題達成に向けて他のサービスと協働出来たことが今回の症例の変化に繋がったのではないかと考える.