第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-9] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-9-2] 転倒者における身体拘束・非拘束の相違検証

谷岡 亮平1,2 (1.江東リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.福岡和白病院リハビリテーション科)

【序論】
厚生労働省は2001年 「身体拘束ゼロへの手引き」,2015 年には看護倫理学会が「身体拘束予防ガイドライン」を作成し,身体拘束について充分な管理を行い,対象者の尊厳を守る事が義務付けられている.しかし入院生活では生命を優先し,身体拘束を行う事は少なくない.臨床では常に倫理的価値の対立が存在し,様々な考えの中で葛藤を抱いているセラピストも多い中,身体拘束の効果を検討したRCTは存在せず,十分なエビデンスに乏しい.
【目的】
転倒の危険因子には居住環境などによる外的因子,疾患や服薬による内的因子に分けられる.施設における転倒発生場所は,ベッド周囲・車椅子やポータブルトイレへの移乗時に発生しやすく,入院後早期の1〜2週間以内に発生する頻度が高いとされている.そのため,必要に応じ,入院直後より多職種が共同し,転倒の発生を防ぐためのカンファレンスを行う必要がある.当院でも転倒に対するカンファレンスが実施されているものの,外的因子を上手く調整できない場合には身体拘束を必要としている.しかしながら,身体拘束に関する明確な判断基準がなく常に職種や個人により意見が別れることが多くある.そこで当院での転倒患者に焦点を当て,身体拘束使用者,身体拘束非使用者における内的因子の相違を検証する.
【方法】
 2022年8月1日〜2022年12月31日に当院に入院され,リハビリテーション以外の入院生活において転倒された84名(拘束群55名,非拘束群29名)を対象とした.調査項目は各対象者のMini Mental State Examination (以下MMSE),Functional Balance Scale (以下FBS),Functional Independence Measure (以下FIM運動項目,FIM認知項目)とし,解析はロジスティック回帰分析にて行った.
【倫理的配慮,説明と同意】
 本研究はヘルシンキ宣言ならびに臨床研究に関する倫理指針に従って行った.得られたデータは匿名化し個人情報管理に留意した.
【結果】
 身体拘束との正の関連を認めた項目はFIM運動項目(OR=0.912,95%CI=0.841-9.88,P<0.02),FIM認知項目(OR=0.693,95%CI=0.544- 8.83,P<0.003)であった.MMSE(OR=0.951,95%CI=0.761-1.19,P=0.66),FBS(OR=0.693,95%CI=0.956-1.14,P=0.34)は関連を認めなかった.
【考察】
検証の結果,転倒した拘束群及び非拘束群においてFIM運動項目,FIM認知項目に正の関連を示し,MMSE,FBSでは関連は得られなかった.今回の検証は転倒者での比較であり,身体機能・認知機能の点数に関わらず転倒が発生しているため,身体拘束の判断基準として使用することはできない.「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」では転倒リスクのスクリーニングと予防策の実施が推奨されている.しかしスクリーニングツールは数多く報告されているものの,その予測度にはばらつきがある.山田らは先行研究の中で,「高齢者の身体的な変化と,それに相応しない理解や判断が発生誘因となることが多く,動ける・動きたい衝動が可能動作範囲の認識を上回る場合に起こりやすい」と述べている.今後は患者自身の転倒に対する認識と,しているADLとの乖離を評価し,身体拘束の判断ツールの一つとしたい.