第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-5-18] 重度脳卒中患者に対し電気刺激療法とロボット療法を併用した事例

呉 京美, 前田 尚賜 (船橋市立リハビリテーション病院 回復期支援部)

"【研究背景】脳卒中後の上肢麻痺に対する療法として,電気刺激療法,ロボット療法など脳卒中ガイドラインで推奨されている手法がある.Hatemら1)は脳卒中後の上肢リハビリテーションのデシジョンツリーを示しており,様々な手法を組み合わせることが脳卒中後の上肢麻痺改善に対し有用であると報告している.今回,重度脳卒中患者に対し課題指向型訓練の補助として電気刺激療法とロボット療法を併用し,上肢機能の改善を認め,在宅生活の再開に至った事例を経験したため報告する.本報告は当院倫理委員会の承認を得ている.
(船K-2023-23)
【症例紹介】40歳代,女性,左利き.発症前は介護福祉士として勤務.左被殻出血と診断.重度右片麻痺,感覚障害,軽度失語症,高次脳機能障害が残存しており,発症から1か月後に当院へ入院.初回評価では,FMA10点,1横指の亜脱臼あり,右肩関節に疼痛を伴う可動域制限あり.軽度の喚語困難あり,MMSE25点.ADLを介助されることに対し不安,情けなさから感情失禁あり.基本動作より介助が必要でFIM51点(運動35点,認知16点)と食事と整容以外のADL全般に介助が必要.
【経過】作業療法では入院10日後から亜脱臼改善,右側へ注意を向けるための感覚刺激として機能的電気刺激装置を使用し,1日30分行った. 加えて残りの30分でADL訓練や座位バランス訓練を行った.入院1か月後にFMA32点,MALは本人の心理的な面を考慮し未評価.継続して機能的電気刺激装置を使用して上肢機能訓練を行った.入院2か月後に入浴以外の病棟ADLが自立.FIM104点(運動71,認知33).FMA45点,MALのAOU1.62,QOM0.85.手指伸展の随意性が低下しており生活での使用頻度は少ない状態であったため,総指伸筋と示指伸筋に随意介助型電気刺激装置を使用しながら課題指向型訓練を開始した.入院3か月後,FMA43点,MALのAOU2.2,QOM2.0,ARAT(右/左)28/57点と生活での使用頻度が多くなった.しかし,中枢部の筋力低下,緊張が高く,可動域制限があったので,肩周囲のストレッチとReoGo-Jを自主トレとして開始した.作業療法時間ではReoGo-Jの難易度調整,課題指向型訓練,IADL訓練を中心に行った.滞空位での物品操作時に右肩関節に疼痛がみられたため,本人と相談しながら課題難易度を調整し,状態に合わせて自主トレを指導した.IADLもやりやすい方法を本人と相談しながら,成功体験を増やしていった.最終的に肩関節の疼痛なくIADLが可能となり,「家に帰ってもやってみます.」と自信がついたようであった.入院4か月後 FMA45点, MALのAOU2.75,QOM3.50,ARAT(右/左)53/57点. FIM113点(運動80,認知33)でADL自立し,IADLも自立して自宅退院となった.
【考察】唯根ら2)によると早期亜急性期を対象としたFMAのMCIDは4週間の場合,9~10点と示しており,入院~2か月後でFMA10→32→45点に改善したのはデシジョンツリーをもとに機能的電気刺激療法を使用したことが有用であったと思われる.唯根ら2)によると早期亜急性期を対象としたARATのMCIDは2週間で12~17点と示しており,入院3~4カ月後でARAT28→53点と改善したのは,随意介助型電気刺激装置を使用しながら課題指向型訓練を行い, ReoGo-Jの自主トレも行ったこと,本人が疼痛に配慮し段階付けをしながら生活に凡化していったことが関係していると考える.
【引用文献】
1)Hatem SM,et al: Rehabilitation of motor function after stroke:a multiple systematic review focused on techniques to stimulate upper extremity recovery.Front Hum Neurosci 13:442,2016
2)唯根 弘,他: 脳卒中後の上肢機能評価における 臨床的に意義のある最小変化量と最小可検変化量の検証 ─システマティックレビュー—.作業療法 42(5):577,2023"