[PA-7-2] 脳卒中片麻痺者の非麻痺側リーチ動作における上肢と姿勢の協調性改善の効果検証
マーカーレスモーションキャプチャーによる分析
【序論】近年,リハビリテーションの効果を示す方法として,モーションキャプチャーを使用した報告が増えている.これらを使用することで容易に介入効果を示すことが可能となってきた.今回,脳出血により左片麻痺を呈した症例を担当した.症例は,非麻痺側上肢でのリーチの際に座位バランスを維持できない時や,食事において掬いこぼすことがあった.そのため,非麻痺側上肢でのリーチ動作において,安定した座位保持や上肢の操作性向上が必要であった.今回は姿勢の安定化に向けて40分の治療介入を行い,治療後のリーチ動作の変化を,マーカーレスモーションキャプチャーにて効果検証を行った.結果として,非麻痺側の前方リーチ動作において相関分析を行うと,手と姿勢の協調関係が“強い相関”へと変化し,リーチ動作に伴う体幹前傾運動の安定化と協調性の向上が示された.
【症例紹介】脳出血による左片麻痺を呈した60歳代の女性.Brunnstrom .stageは上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅲ,感覚障害は重度鈍麻であった.FIMは運動項目19点,認知項目17点.動的座位保持が不安定なため,車椅子上での生活が主であった.食事は概ね自立していたが,食材の掬いこぼしが散見された.また,洗面台で手を洗う際に,前方への重心移動がしづらい為に手を洗うことにも介助を要していた.そのため,リーチ動作の円滑化に向けて介入した.介入日は発症から115日目であった.なお,本研究に対して書面にて同意を得ている.
【方法】使用機器はスマートフォン(iPhoneX®,30Hz)とし,対象者の右側方2mの位置からリーチ動作を撮影した.対象者には,リーチ動作課題において非麻痺側上肢にてできるだけ遠くにペットボトルを前方に移動させるよう教示し,これを3往復実施した.リーチ動作中の矢状面姿勢はMovenetモデル(Google)を用いて身体座標を推定した.推定座標は股関節位置を原点とし,Ear及びWristのリーチ方向(X)成分の軌道(以下Ear, Wrist)を算出した.Ear変位量は体幹前傾を,Wrist変化量はリーチ動作中の手の動きを反映する指標とした.これらEar変化量及びWrist変化量について相関分析を行い,作業療法介入前後の相関係数を比較した.
【介入方法】Pusher様の症状があり,麻痺側後方へバランスを崩しやすかった.常に非麻痺側股関節が過緊張状態であり,非麻痺側足底や臀部に重心を乗せる誘導への抵抗感が強かった.前方へリーチする際に足底へ十分に重心を移動することが難しかったため,非麻痺側股関節の過緊張を減弱してから,体幹の伸展活動を促した.非麻痺側へ重心を移動しやすくなり,体幹が伸展しやすくなった後に,非麻痺側上肢を挙上する練習をおこなった.そのなかで,非麻痺側臀部でバランスを保ちながらリーチする練習を行った.
【結果】矢状面からの肉眼観察では,前方へのリーチに伴って骨盤の前傾・股関節の屈曲角度が広がることが見られた.モーションキャプチャーにて分析した結果,治療前はWristとEarの変化量の相関係数が0.61であったが,治療後は0.95となったため,中等度の正の相関から非常に強い正の相関へと改善が認められた.
【考察】非麻痺側股関節の強い固定性が,前方への重心移動を阻害していると仮説を立てて介入した.股関節周囲の筋緊張の緩和による運動性の確保と,体幹の伸展を促通する介入を中心に行った.治療後のモーションキャプチャーの分析結果として,WristとEarの相関関係が介入後で改善が認められ,リーチ動作に伴う体幹前傾運動が協調的に行われたことが示唆された.リーチ動作と姿勢の協調性の改善は,食事や整容など日常生活場面において,上肢の操作性向上に汎化する可能性があると思われる.
【症例紹介】脳出血による左片麻痺を呈した60歳代の女性.Brunnstrom .stageは上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅲ,感覚障害は重度鈍麻であった.FIMは運動項目19点,認知項目17点.動的座位保持が不安定なため,車椅子上での生活が主であった.食事は概ね自立していたが,食材の掬いこぼしが散見された.また,洗面台で手を洗う際に,前方への重心移動がしづらい為に手を洗うことにも介助を要していた.そのため,リーチ動作の円滑化に向けて介入した.介入日は発症から115日目であった.なお,本研究に対して書面にて同意を得ている.
【方法】使用機器はスマートフォン(iPhoneX®,30Hz)とし,対象者の右側方2mの位置からリーチ動作を撮影した.対象者には,リーチ動作課題において非麻痺側上肢にてできるだけ遠くにペットボトルを前方に移動させるよう教示し,これを3往復実施した.リーチ動作中の矢状面姿勢はMovenetモデル(Google)を用いて身体座標を推定した.推定座標は股関節位置を原点とし,Ear及びWristのリーチ方向(X)成分の軌道(以下Ear, Wrist)を算出した.Ear変位量は体幹前傾を,Wrist変化量はリーチ動作中の手の動きを反映する指標とした.これらEar変化量及びWrist変化量について相関分析を行い,作業療法介入前後の相関係数を比較した.
【介入方法】Pusher様の症状があり,麻痺側後方へバランスを崩しやすかった.常に非麻痺側股関節が過緊張状態であり,非麻痺側足底や臀部に重心を乗せる誘導への抵抗感が強かった.前方へリーチする際に足底へ十分に重心を移動することが難しかったため,非麻痺側股関節の過緊張を減弱してから,体幹の伸展活動を促した.非麻痺側へ重心を移動しやすくなり,体幹が伸展しやすくなった後に,非麻痺側上肢を挙上する練習をおこなった.そのなかで,非麻痺側臀部でバランスを保ちながらリーチする練習を行った.
【結果】矢状面からの肉眼観察では,前方へのリーチに伴って骨盤の前傾・股関節の屈曲角度が広がることが見られた.モーションキャプチャーにて分析した結果,治療前はWristとEarの変化量の相関係数が0.61であったが,治療後は0.95となったため,中等度の正の相関から非常に強い正の相関へと改善が認められた.
【考察】非麻痺側股関節の強い固定性が,前方への重心移動を阻害していると仮説を立てて介入した.股関節周囲の筋緊張の緩和による運動性の確保と,体幹の伸展を促通する介入を中心に行った.治療後のモーションキャプチャーの分析結果として,WristとEarの相関関係が介入後で改善が認められ,リーチ動作に伴う体幹前傾運動が協調的に行われたことが示唆された.リーチ動作と姿勢の協調性の改善は,食事や整容など日常生活場面において,上肢の操作性向上に汎化する可能性があると思われる.