第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3 

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-3-2] 肩甲部粘液線維肉腫切除後の作業療法経験

柴崎 有希恵1, 山本 摩弓1, 今井 雄介1, 中島 新2 (1.東邦大学医療センター佐倉病院 リハビリテーション部, 2.東邦大学医療センター佐倉病院 リハビリテーション科)

【はじめに】悪性軟部腫瘍の手術治療では再発率が高いため,周囲の正常組織を含めた広範切除を施行される場合がある.今回,左肩甲部の粘液線維肉腫(myxofibrosarcoma)により広範切除術を施行された症例の作業療法(以下OT)を経験した.術後,疼痛や筋力低下を生じたが,Codman体操の導入により疼痛の軽減及び二次的な関節拘縮の予防に繋がりADLの向上を認めたため,報告する.発表に際し,症例の了承を得ている.
【症例紹介】80歳代前半の男性,右利き.入院前のADLは自立.趣味はグランドゴルフ.数か月前に左肩甲部の皮下腫瘤が発生,その後増大傾向のため,X年Y月Z日当院形成外科を紹介受診.Y+3月腫瘍切除目的のため入院となった.入院翌日に左肩甲部腫瘍切除術及び人工真皮術を施行.左側の棘上筋,棘下筋,僧帽筋中部~下部線維及び三角筋後部線維を切除,深部は肩甲骨骨膜,肩甲棘基部を切断した.病理結果は左肩甲部粘液線維肉腫と診断された.腫瘍切除後18日目に広背筋皮弁による再建術及び左大腿部分層植皮術を施行.皮弁術後8日目よりOT開始.術後,左上肢運動制限の指示はなかった.
【OT初回評価】開始時直近のCRPは6.63㎎/dL,左上肢全般に炎症所見及び手術侵襲に伴う疼痛(安静時NRS 6,運動時NRS 8)を認めた.左手指運動は良好.左肘関節の他動ROMは屈曲100°,伸展−5°,左肩関節は疼痛による過緊張から防御性収縮を認め,自動・他動運動ともに困難であった.基本動作は見守り~軽介助,ADL場面では左手の使用は困難で,FIM78点であった.
【治療経過】左肩関節の拘縮予防及び左上肢の機能向上を目的に机上ワイピング練習と肘関節より遠位筋の筋力強化から開始した.しかしながら手術侵襲に伴う疼痛と,これによる防御性収縮が認められ,OT実施の制限となっていた.OT開始後6日目より左肩周囲の過度な緊張を取り除く目的でCodman体操を開始した.その上で肩関節ROMex,リーチ動作練習,ADL指導(更衣)を行った.【結果】退院時,疼痛は安静時NRS 0,運動時NRS 4と軽減を認め,MMTは左側肩屈曲3-,外転3-,外旋2,肘屈曲4,伸展4,握力:右側17.5㎏/左側14.9kgであった.ROM(自動/他動)は左肩関節屈曲 40°/90°,外転55°/90°,外旋-10°/20°で,左上肢のリーチ範囲は狭小化を認めたものの,左上肢を補助的に使用することが可能となり,FIM111点へ改善を認めた.近医での外来リハビリ通院を予定し,皮弁術後から34日目に自宅退院の運びとなった.退院半年後,当院での外来診察時には趣味であるグランドゴルフを再開できたと報告が聞かれた.
【考察】肩甲骨周囲の広範切除術後は上肢挙上困難などの合併症がADL低下の原因となることがある.今回,左側の棘上筋・棘下筋の他に僧帽筋中部~下部線維及び三角筋後部線維の広範囲切除となり,手術侵襲に伴う疼痛とこれによる防御性収縮により介入に難渋し,患肢の不使用によって肩の関節拘縮に繋がることが懸念された.今回,Codman体操を導入したことで上肢の過剰な筋収縮の抑制を図り,疼痛の軽減や二次的な関節拘縮の予防に繋げることが出来た.その結果,左側の肩関節機能低下は認めたものの,ADLの改善がみられ,趣味活動の再開が可能となったと考えられる.