[PH-4-4] 保護観察において作業療法の実感を得るための再生プロセス
【はじめに】
刑事施設の出所者や非行少年には,社会の中で改善更生を図ることを目的として「保護観察」が付されることがある.近年,作業療法士の資格を持つ保護観察官が現れ,作業療法実践が報告されている(佐藤,2020).他方,作業療法士が保護観察官の職務をおこなうにあたって,どのような課題があり,どのような経験が作業療法士としての実感をもたらすのか,その再生プロセスは明らかではない.保護観察における作業療法の課題と経験に着目をし,作業療法士の資格を持つ保護観察官にインタビュー調査を行った.
【方法】
先行研究から著者と所属を確認し,作業療法士免許を有する保護観察官を対象とした.面接はWeb会議システムを利用した半構造化面接を行った.インタビューガイドは先行研究を参考にし,評価,支援,連携,意義,将来の5つの視点で作成した.分析方法はグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を採用した.対象は少数だが,状況,行為・相互行為・帰結のパラダイムに基づいて彼らの心理・社会的累積を明らかにできることから,本研究の目的に適すと考えた.対象者には電話および事前に文書を郵送して,研究主旨,個人情報の取り扱い,資料の保存と学術的使用について文書を確認してもらい同意を得た.なお,常葉大学倫理審査委員会の承認(承認番号:2020-017H)を得て実施した
【結果】
作業療法士の資格を持つ保護観察官は3名抽出され,うち2名から同意を得た.両者とも40代の男性で作業療法士の免許取得後20年間を経過し,精神科作業療法に従事した経験があった.また,保護観察官の経験歴は2年であった.分析の結果,4つの【カテゴリ—】と19 の≪概念≫が抽出された.【実施課題】として,≪個別で関わることが困難≫≪事務仕事が多い≫≪オーダーの出され方が異なる≫≪関わり方の困難性≫≪期間限定の支援≫≪矯正施設との連携不足≫が抽出されたが,≪事例実践≫≪面接≫≪集団療法≫≪評価≫≪各機関との連携≫などの【経験の蓄積】や≪介入計画≫≪客観的評価≫≪信頼関係の構築≫≪障害特性に合わせた支援≫≪集団療法の運営≫などの【作業療法の強み】を活用して,≪再犯防止の貢献≫≪役立てる作業療法士≫≪やりがいの獲得≫経験が【保護観察における作業療法の実感】につながったと語った.
【考察】
対象者は抽出された様々な課題に直面しながら,作業療法の強みを大切にし,経験を重ねることで作業療法士として実感を得ていた.今福によれば,精神疾患や発達障害を抱える保護観察対象者らには,その特徴等を踏まえて,面接時の対応等の工夫が必要である(今福,2021).作業療法士の強みに焦点を当てれば,観察力や面接技術に長けている作業療法士は,信頼関係の構築を基盤とし,障害特性に合わせた適切な評価と介入計画を立案できると考えられた.また,保護観察所では薬物依存症等を対象に再犯防止のための集団療法が行われている.心理教育や認知行動療法などは作業療法士が得意とする領域ではないだろうか.
現在の保護観察分野は作業療法士にとって身近な領域とはいえないが,保護観察官には「心理学,教育学,福祉及び社会学等の更生保護に関する専門的知識」が求められることから(法務省,2021),作業療法の学問とも重なる.保護観察において作業療法の実感を得るためには,様々な【実施課題】に向き合い【経験の蓄積】や【作業療法の強み】を活かすことが重要である可能性が示唆された.作業療法士の資格を持つ保護観察官は全国でも稀であるが,今後は,対象者を増やしながら研究の精度を高めていきたいと考える.
刑事施設の出所者や非行少年には,社会の中で改善更生を図ることを目的として「保護観察」が付されることがある.近年,作業療法士の資格を持つ保護観察官が現れ,作業療法実践が報告されている(佐藤,2020).他方,作業療法士が保護観察官の職務をおこなうにあたって,どのような課題があり,どのような経験が作業療法士としての実感をもたらすのか,その再生プロセスは明らかではない.保護観察における作業療法の課題と経験に着目をし,作業療法士の資格を持つ保護観察官にインタビュー調査を行った.
【方法】
先行研究から著者と所属を確認し,作業療法士免許を有する保護観察官を対象とした.面接はWeb会議システムを利用した半構造化面接を行った.インタビューガイドは先行研究を参考にし,評価,支援,連携,意義,将来の5つの視点で作成した.分析方法はグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)を採用した.対象は少数だが,状況,行為・相互行為・帰結のパラダイムに基づいて彼らの心理・社会的累積を明らかにできることから,本研究の目的に適すと考えた.対象者には電話および事前に文書を郵送して,研究主旨,個人情報の取り扱い,資料の保存と学術的使用について文書を確認してもらい同意を得た.なお,常葉大学倫理審査委員会の承認(承認番号:2020-017H)を得て実施した
【結果】
作業療法士の資格を持つ保護観察官は3名抽出され,うち2名から同意を得た.両者とも40代の男性で作業療法士の免許取得後20年間を経過し,精神科作業療法に従事した経験があった.また,保護観察官の経験歴は2年であった.分析の結果,4つの【カテゴリ—】と19 の≪概念≫が抽出された.【実施課題】として,≪個別で関わることが困難≫≪事務仕事が多い≫≪オーダーの出され方が異なる≫≪関わり方の困難性≫≪期間限定の支援≫≪矯正施設との連携不足≫が抽出されたが,≪事例実践≫≪面接≫≪集団療法≫≪評価≫≪各機関との連携≫などの【経験の蓄積】や≪介入計画≫≪客観的評価≫≪信頼関係の構築≫≪障害特性に合わせた支援≫≪集団療法の運営≫などの【作業療法の強み】を活用して,≪再犯防止の貢献≫≪役立てる作業療法士≫≪やりがいの獲得≫経験が【保護観察における作業療法の実感】につながったと語った.
【考察】
対象者は抽出された様々な課題に直面しながら,作業療法の強みを大切にし,経験を重ねることで作業療法士として実感を得ていた.今福によれば,精神疾患や発達障害を抱える保護観察対象者らには,その特徴等を踏まえて,面接時の対応等の工夫が必要である(今福,2021).作業療法士の強みに焦点を当てれば,観察力や面接技術に長けている作業療法士は,信頼関係の構築を基盤とし,障害特性に合わせた適切な評価と介入計画を立案できると考えられた.また,保護観察所では薬物依存症等を対象に再犯防止のための集団療法が行われている.心理教育や認知行動療法などは作業療法士が得意とする領域ではないだろうか.
現在の保護観察分野は作業療法士にとって身近な領域とはいえないが,保護観察官には「心理学,教育学,福祉及び社会学等の更生保護に関する専門的知識」が求められることから(法務省,2021),作業療法の学問とも重なる.保護観察において作業療法の実感を得るためには,様々な【実施課題】に向き合い【経験の蓄積】や【作業療法の強み】を活かすことが重要である可能性が示唆された.作業療法士の資格を持つ保護観察官は全国でも稀であるが,今後は,対象者を増やしながら研究の精度を高めていきたいと考える.