第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PH-7-5] 長期間身体拘束を要した患者に対して作業療法介入が拘束解除に繋がった1例の報告

身体拘束患者に作業療法士が介入する意義

山崎 健斗, 山田 真由美 (新潟県立精神医療センター 社会復帰部)

【はじめに】
 我が国の精神科医療においては治療に隔離・身体拘束を用いることがある.隔離・身体拘束に関する意識の研究(長谷川,2012)によれば,作業療法士(以下,OT)は隔離・身体拘束を実施することに不利益を最も自覚している職種であると報告されている.しかし臨床現場でOTが介入する機会もある中,これらに関連した研究報告は少ない.今回,長期間身体拘束を要していた症例にOTが介入したことで拘束解除に至った1例の報告を行った.なお,本研究において本人・家族に説明を行い,書面にて同意を得ている.
【事例紹介】統合失調症の60歳代女性.家族構成は母と妹.30歳代で発症し,X年幻覚妄想が著しく不穏であったため母が多くの薬を飲ませ意識混濁し当院に入院.妄想や不穏による突発的な体動で安静困難となり,入院時より身体拘束を開始した.その後種々の薬剤調整や修正型電気痙攣療法を施行され,まとまりのない行動は残存するも拘束一時中断は可能となった.その際車椅子移乗時などふらつきが目立ち,ADL維持のためX+13年に作業療法が開始された.本人の意向は「歩いて退院すること」で家族は入院継続を希望している.
【作業療法評価】表情は平坦で無為自閉だが,時に妄想や精神運動興奮による突発的な体動など易変性が顕著であり転倒転落リスクが高かった.また思考の解体症状が顕著で会話は疎通のむらが大きかった. 認知機能評価はMMSE(Mini Mental State Examination)10/30点,改訂長谷川式簡易知能検査 4/30点,身体機能評価では四肢筋力MMT3-4レベルで廃用性の筋力低下を認めた.生活機能評価はFIM(Functional Independence Measure )20/126点, 作業的側面はSTOD(Screening Tool for the classification of Occupational Dyfunction)66/84点で,関心・興味チェックリストでは「歌を歌う・カラオケ」「音楽を聴く・楽器演奏」「友達とおしゃべり・遊ぶ」に興味がある・してみたいと回答した.
【介入経過】当初は本人の意向に沿って歩行訓練を進めるも安全の担保は困難であった.主治医と相談の上,車椅子で安全に活動できることを目標にシフトした.介入1ヵ月後から OTは拘束一時中断の時間を利用して車椅子移乗・耐久性・安全に過ごせるかを評価し,病棟では看護師が中心となり低床マットを使用し様子を観察した.また自室での過ごし方を見直し,好きな歌手の音楽を聴いて過ごすなど環境調整を行った. 介入3ヵ月後から部分的にカラオケや体操などの集団作業療法に参加できるようになり,他患者や職員と会話をして楽しむ姿がみられるようになった.
【結果】介入6ヵ月後,13年に及ぶ身体拘束が解除となった.解除後本人からは「楽になりました」との声が聞かれた.病棟では整備された環境下で安全に過ごすことができており,作業療法には継続的に参加している.再評価ではFIM28点,STOD 43/84点だった.なお現在は本人と家族とも情報共有しながら施設入所に向けて退院支援を続けている.
【考察】本症例は長期入院に加え身体拘束という強力な行動制限により,「活動」「参加」の機会を奪われ作業機能障害を呈していたが,OTの介入により現実検討の賦活や生活範囲の拡大から他者交流の機会が増えた.本症例においては多職種連携の中で,OTの「活動」と「参加」を中心に考えるという強みを生かしたことが本人らしい生活を取り戻すことに繋がったと推測している.精神科医療において高止まりが続く隔離・身体拘束患者の最小化に向けて,OTが介入する意義は大きいことが示唆された.行動制限の解除に留まらず,今後もOTの強みを生かして本人らしい生活の支援を続けてくことが重要だと考えている.