第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-7] ポスター:発達障害 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PI-7-5] 家族との協働を中心とした個別療育によって日常生活活動の改善がみられた一事例

長岡 雅登, 土井 一輝, 宮坂 竜太, 今西 孝徳 (株式会社ハッピーサービスグループ 発達支援リハスタジオハッピーリング西ノ京)

【はじめに】放課後等デイサービス利用児の保護者が,作業療法士に求める相談内容に「日常生活の支援方法」を挙げており(倉本,2021),生活の場で支援する役割を担う必要性がある.家族との協働を中心に,ボディボディイメージの形成や身体操作の向上を目的とした個別療育によって,日常生活活動に改善がみられた事例を担当したため報告する.本人・保護者には本報告の旨を説明,口頭と書面で同意を得た.
【事例紹介】11歳6か月男児.未診断.地域小学校支援級在籍.未熟児出生.運動発達:立位17カ月/歩行19カ月.新版K式発達検査(生活年齢10歳9か月時):全領域発達指数63,姿勢・運動発達指数上限,認知・適応発達指数68,言語・社会発達指数58
【初期評価】母親から「じっと座ることや協調運動,細かい作業が苦手.将来に向けて生活動作の自立が進み,修学旅行に向けて入浴動作ができてほしい」と聴取.カナダ作業遂行測定(以下COPM)は「洗髪・洗体ができるようになってほしい」が重要度10,遂行度・満足度8.入浴動作は「水が顔にかかるのが苦手で消極的.洗髪は下を向き,ブラシで頭頂部から下向きに一方向に洗う.シャワーチェアがなく,立ってタオルで体を洗い,背中側は洗い残しやすく,家族の確認が必要.入浴に30~40分掛かる」と聴取.日本版感覚プロファイル短縮版は「動きへの過敏性」「低反応・感覚探求」「聴覚フィルタリング」が「非常に高い」,「触覚過敏性」「低活動・弱さ」が「高い」.遊び場面では粗大運動を好み,衝動的な動きが多かった.また,揺れる遊具やよじ登る遊具は末梢での固定が過剰優位で身体中枢の働きが乏しく,姿勢保持や調整,複雑な身体操作,手順を要する遊びに苦手さがあった.閉眼し,手指探索のみで服に付けた洗濯ばさみを取ったり,袋から物品を探す遊びは困難だった.
【介入方針と目標設定】初期評価から,複雑かつ細かな動作が多い入浴動作は,集中のしづらさや疲れやすさ,洗い残しに繋がっており,苦手な作業形態と考える.個別療育では筋緊張の適正化やボディイメージの形成,抗重力活動で姿勢の安定性を高め,身体操作の向上を促すことを介入方針として母親に共有し,目標達成スケーリング(以下GAS)で目標を設定,「-2/洗髪はブラシを使って一方向に向けて洗うことができ,洗体はタオルを使って声掛けと見守りがあれば身体後面を洗える」を基準とした.
【経過】個別療育(50分/回)を4か月間(2回/月)実施.併せてホームプログラムを提案,本人・家族が主体的にできる内容を心掛けた.介入前半は触圧覚・固有覚入力が豊富な活動でボディイメージの形成を促し,身体中枢での姿勢保持を賦活する活動を提供.家庭では座位での動作の試行,手順や適切な水量の確認を行ったと聴取.介入後半は効率的な身体操作の向上を目的に,遊具間の移動や揺れる遊具に乗ってリーチ動作,物品操作の活動を提供.家庭では洗髪・洗体それぞれ10分とし,間で母親が浴室扉をノックし,意識付けを行ったと聴取.
【結果】COPMは遂行度・満足度10に向上.GASは「0/道具を使って洗髪と洗体ができる」に向上.入浴動作は「自分からお風呂に行き,洗う姿勢や手順を自分なりに工夫し,20分でお風呂を終えるようになった.家族の確認や洗い残しが原因と考えられる体臭も減った.修学旅行でもでき,友達と楽しめたそうです」と聴取.
【考察】小児における治療的介入では,家族とのトレーニングや目標の特定により有意に改善する可能性が示唆されており(Tricia et al,2012),本事例でも日常生活活動の苦手さの背景にある課題を保護者と共有し,具体的な目標を協働して定め,家庭での取り組みも併せて実施.その結果,身体操作や本人の取り組む意識,動作の工夫に変化が生じ,実用性が向上したと考える.