[PJ-5-5] 回復期リハビリテーション病棟における大腿骨近位部骨折患者の歩行自立に対する認知関連行動アセスメント(CBA)の有用性
【はじめに】
大腿骨近位部骨折患者において,認知機能の低下は歩行能力を低下させる要因の一つである(喜多川孝欽ら, 2012).当院では大腿骨近位部骨折患者の認知機能の評価尺度として,改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)を用いているが,自立歩行の可否に対する認知機能の評価として有効に活用出来ていない.特に,HDS-R21点以上の非認知症の後期高齢患者に対して,認知機能の評価より自立歩行の可否を予測することは難しい.近年,脳血管障害患者の認知機能を生活場面で評価する認知関連行動アセスメント(CBA:Cognitive-related Behavioral Assessment)の有用性が多数報告されている.そこで今回,CBAを後期高齢で非認知症である大腿骨近位部骨折患者に用いて,歩行自立の判断材料となるかを検証し,CBAの有用性を明らかにし,作業療法の一助とすることを目的とする.
【対象】
2021年10月から2023年9月までの2年間で,当院回復期リハビリテーション病棟を退院した大腿骨近位部骨折患者95名のうち,受傷前,歩行が自立し,入院時全荷重を許可され,退院時,移動手段が歩行となった,後期高齢患者(75歳以上)で,非認知症であった(入院時HDS-R21点以上)32名(平均年齢83.21±7.91歳)を対象とした.既往に認知症のある患者,入院中に急変,死亡転帰に至った患者は除外した.なお本研究は本法人の研究倫理審査委員会の承認を得,利益相反はない.
【方法】
調査項目は,入院時CBAの合計・意識・感情・注意・記憶・判断・病識,入院時HDS-R,退院時機能的自立度評価表(FIM)における移動とした.退院時の歩行がFIMにおいて6点以上を自立群(n=24),5点を見守り群(n=8)の2群に分け,CBAの各項目をMann-Whitney U検定で比較した.次に,ROC曲線を用い,2群間でのCBA合計点のカットオフ値,ROC曲線下面積(AUC),感度,特異度を算出した.また,歩行自立に影響するCBAの項目を抽出するため,ロジスティック回帰分析を行った.統計学的有意水準は危険率5%未満とした.
【結果】
2群において,CBAの全項目において,自立群が見守り群に比べ有意に高かった.カットオフ値は,CBA合計25点(AUC 0.935,感度87.5%,特異度100%)であった.また,歩行自立に影響するCBAの項目として,記憶が抽出された(OR8.222,95%CI1.780-37.971).
【考察】
後期高齢で非認知症である大腿骨近位部骨折患者において,入院時CBAが高い方が歩行自立を獲得しやすいことが示唆された.また,今回のカットオフ値は,ROC曲線でのAUCの結果からも,高度の予測精度あることが示され,歩行自立の判断材料として有用な指標となることが示唆された.HDS-Rは紙面上での検査であり,単語の想起等,短期記憶に関する項目で多く構成されている. CBAは,生活場面での行動観察から認知機能を評価するものであり,HDS-RとCBAでは評価の内容が異なる.歩行自立に影響する入院時CBAの項目として記憶が抽出されたが,CBAの記憶では,長期記憶(エピソード記憶,展望記憶)を評価する.大腿骨近位部骨折患者の歩行自立の獲得に向けて,入院早期より病棟生活を通して,エピソード記憶,展望記憶にも配慮した作業療法の提供が重要であると考える.
大腿骨近位部骨折患者において,認知機能の低下は歩行能力を低下させる要因の一つである(喜多川孝欽ら, 2012).当院では大腿骨近位部骨折患者の認知機能の評価尺度として,改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)を用いているが,自立歩行の可否に対する認知機能の評価として有効に活用出来ていない.特に,HDS-R21点以上の非認知症の後期高齢患者に対して,認知機能の評価より自立歩行の可否を予測することは難しい.近年,脳血管障害患者の認知機能を生活場面で評価する認知関連行動アセスメント(CBA:Cognitive-related Behavioral Assessment)の有用性が多数報告されている.そこで今回,CBAを後期高齢で非認知症である大腿骨近位部骨折患者に用いて,歩行自立の判断材料となるかを検証し,CBAの有用性を明らかにし,作業療法の一助とすることを目的とする.
【対象】
2021年10月から2023年9月までの2年間で,当院回復期リハビリテーション病棟を退院した大腿骨近位部骨折患者95名のうち,受傷前,歩行が自立し,入院時全荷重を許可され,退院時,移動手段が歩行となった,後期高齢患者(75歳以上)で,非認知症であった(入院時HDS-R21点以上)32名(平均年齢83.21±7.91歳)を対象とした.既往に認知症のある患者,入院中に急変,死亡転帰に至った患者は除外した.なお本研究は本法人の研究倫理審査委員会の承認を得,利益相反はない.
【方法】
調査項目は,入院時CBAの合計・意識・感情・注意・記憶・判断・病識,入院時HDS-R,退院時機能的自立度評価表(FIM)における移動とした.退院時の歩行がFIMにおいて6点以上を自立群(n=24),5点を見守り群(n=8)の2群に分け,CBAの各項目をMann-Whitney U検定で比較した.次に,ROC曲線を用い,2群間でのCBA合計点のカットオフ値,ROC曲線下面積(AUC),感度,特異度を算出した.また,歩行自立に影響するCBAの項目を抽出するため,ロジスティック回帰分析を行った.統計学的有意水準は危険率5%未満とした.
【結果】
2群において,CBAの全項目において,自立群が見守り群に比べ有意に高かった.カットオフ値は,CBA合計25点(AUC 0.935,感度87.5%,特異度100%)であった.また,歩行自立に影響するCBAの項目として,記憶が抽出された(OR8.222,95%CI1.780-37.971).
【考察】
後期高齢で非認知症である大腿骨近位部骨折患者において,入院時CBAが高い方が歩行自立を獲得しやすいことが示唆された.また,今回のカットオフ値は,ROC曲線でのAUCの結果からも,高度の予測精度あることが示され,歩行自立の判断材料として有用な指標となることが示唆された.HDS-Rは紙面上での検査であり,単語の想起等,短期記憶に関する項目で多く構成されている. CBAは,生活場面での行動観察から認知機能を評価するものであり,HDS-RとCBAでは評価の内容が異なる.歩行自立に影響する入院時CBAの項目として記憶が抽出されたが,CBAの記憶では,長期記憶(エピソード記憶,展望記憶)を評価する.大腿骨近位部骨折患者の歩行自立の獲得に向けて,入院早期より病棟生活を通して,エピソード記憶,展望記憶にも配慮した作業療法の提供が重要であると考える.