第58回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む)2 

Sat. Nov 9, 2024 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (大ホール)

[PK-2-4] 前交通動脈瘤術後に病識欠如を伴う前向性健忘を呈した一例

宮城 有輝, 玉城 希 (独立行政法人 那覇市立病院 中央医療部リハビリテーション室)

【はじめに】
前交通動脈動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血やその外科的処置後に健忘症状が出現する事は多いとされている.今回,前交通動脈瘤に対して開頭クリッピング術後より病識欠如を伴う前向性健忘を呈した一例を経験したため以下に報告する.尚,本報告に関して本人に口頭と文章で説明した上で同意の署名を得ている.
【症例紹介】
50歳代男性,ADL自立,職業は土木関係の管理職.自宅は集合住宅に妻,娘と3人暮らし.前医で頭部MRI施行,前交通動脈に未破裂脳動脈瘤指摘.手術目的で当院紹介され,開頭による脳動脈瘤頸部クリッピング術施行.術後の頭部MRIで異常所見なし.
【作業療法初期評価 術後6病日】
運動機能低下認めず,高次脳機能障害は前向性健忘,病識欠如を認めた.
MMSE 24/30点,リバーミード行動記憶検査(以下RBMT)標準プロフィール(以下SPS)11/24点,日常記憶チェックリスト5/39点.視覚情報の再認は良く,名前や見当識,数分前の出来事は再生困難であった.毎日貴重品を探す行動,入院中である事が分からず混乱する様子,安静度指示が厳守できないなどの問題点を認めた.
【病識がなく混乱していた時期】
健忘症状に対して術後1週よりメモリーノートを導入したが,病識欠如により記載困難であった.そのため,新聞記事を切り取り添付する作業から開始した.一定時間後に添付した内容の再生やリハビリ場面の動画を撮影しフィードバックを実施した.健忘症状に対しては術後2週から徐々に自覚が生まれ,外的補助手段としてスマートフォンを追加しスケジュール管理能力の向上を図った.また,起床後の混乱,貴重品を探す行動に対しては家族協力によりメッセージボードを病室に設置した.
【外的補助手段の利用が定着した時期】
術後4週から外的補助手段を使用してイベント毎に自ら行動可能となった.一部の出来事記憶は再生可能となったが,時系列での整理が困難であった.術後6週以降は見当識が概ね定着した.
職場復帰を見据えて回復期病院への転院調整を進めていたが,ADLは自立している事から受け入れ先が見つからなかった.術後12週に家族や症例の職場スタッフを含めてカンファレンスを実施し,退院後の問題点や課題を共有した上で術後14週に自宅退院となった.その後は他院にて外来リハビリを継続し,退院後2週で職場復帰となった.
【作業療法最終評価 術後98病日】
病棟内ADL自立.習慣化されたイベントは外的補助手段なしで行動できるが,数日後の予定管理や当日の時間変更などの臨機応変な対応は困難であった.MMSE 30/30点,RBMT SPS 12/24点,日常記憶チェックリスト9/39点.前向性健忘の病識あり退院後もメモリーノートの使用は定着していた.内服は服薬カレンダーを使用する事で自己管理可能となった.起床後に混乱する事もなくなった.
【考察】
前脳基底部性健忘の場合,前交通動脈から出た前脳基底部周辺を支配している穿通枝の閉塞により生じると考えられている(麦倉ら,2023).今回症例においても脳動脈瘤の位置により穿通枝を温存する事が困難であり健忘症状を生じたと考えられる.健忘例では自らの記憶障害の存在や重症度の無自覚が,記憶ストラテジーの使用障害やリハビリ効果の汎化欠如と深い関連を有していると示唆している(鹿島ら,1999).今回,早期より出来事記憶の再生課題やフィードバックを実施した事により症状を認識し,外的補助手段の定着,見当識の改善に繋がったのではないかと考える.