[PK-7-2] 重度認知症患者に対するコミュニケーションロボットを用いた介入
活動の質に着目して
【はじめに】我が国の認知症高齢者数は2025年に730万人,2050年には1000万人を超えると推定され(厚生労働省,2019),重度認知症高齢者の増加も予測される.『作業療法ガイドライン・認知症』(日本作業療法協会,2019)において重度認知症に効果を示すものは「スヌーズレン・音楽」のみであり,重度認知症患者へのロボット支援の報告は少ない.今回,認知症コミュニケーションロボット(以下,だいちゃん)を用いた介入が重度認知症患者の活動の質を高めるのかを検討したので報告する.尚,対象者の家族に口頭で説明し同意を得ている.
【だいちゃんの特徴】39×33×35cm,960gの認知症コミュニケーションロボット(The Harmony Inc.).「おはなしモード・うたモード」などの機能を搭載.
【事例紹介】A氏,90代女性,アルツハイマー型認知症.CDR:3点,要介護5.日中は病棟ホールにてティルト型車椅子上か病室で寝て過ごしている.
【方法】シングルケースデザイン(ABA型).基礎水準期(A1期)及び操作撤回期(A2期)は演者との対話のみ.病棟ホールで過ごすA氏に声を掛け,姿勢調節後に体調を確認.反応に応じて天候や季節の話題で対話を促した.介入期(B期)はだいちゃんの質問や歌を通じて介入.演者はコミュニケーションをサポート.実施回数は各期5回,1回10分程度.場所は病棟ホール.
【評価】介入毎に活動の質評価法(以下,A-QOA)を使用.総得点,各項目の点数をグラフ化.標準偏差帯法により「A1期の平均値の線」と「A1期の平均値+標準偏差の2倍値の線」の帯をグラフ上に作成.各期に差があるか目視法で判断した.
【経過】A1期(#1~5)及びA2期(#11~15):声掛けに対する返答は一言で,A氏からの主体的な言語表出は認めず,感情表出もあまり観察されない.しかし,反応の良い日は,演者に視線を向け「おはよう」と穏やかに微笑み,天候の話題で外に視線を向け「ほんとねぇ」などと返答する.反応の悪い日は,視線は殆ど合わず,発語や笑顔もなく,不機嫌さが目立つ.
B期(#6~10):言語・感情表出に大きな変化は無い.だいちゃんを見せながら声掛けし,あやして見せた.反応が良い日が多く「かわいいねぇ」と笑顔を見せ,自然にだいちゃんに手を伸ばし,赤子をあやすように抱いてみせた.演者より「子育ては大変でしたか?」と問いかけると「そうねー」と笑顔も見せた.反応が悪い日は一度のみ.発語は無いが,だいちゃんをじっと見つめる様子が観察された.
【結果】A-QOA:「開始:A1期1.4点,B期2.0点,A2期1.6点」「視線:A1期1.4点,B期2.8点,A2期1.4点」のみ,各期の平均値に差を認めた.その他の項目及び総得点は横ばいで推移.標準偏差帯法:帯の範囲外に介入期のデータがすべて存在する項目はなく,目視法では効果を認められなかった.
【考察】認知症は最重度に達すると運動・言語機能は崩壊し,心理・社会的介入は困難になる(松下,2007)と言われているように,A氏も重症度が影響し殆どの項目で各期に差を認めなかったと考える.一方で手を伸ばす,あやす,見つめるなどの反応の変化を認めた.これらの変化は「開始・視線」に該当,観察視点に主体性や興味の有無が含まれるため,A氏がだいちゃんに主体的に興味を示すサインであったと考える.重度認知症はA-QOAの得点も低くなりやすいため,このサインは重要な意味を持つと考える.そして変化の要因は対話のみには無い「だいちゃんの特性・作業療法士によるサポート」にあると考える.今回,目視法では効果を認めなかったが,重度認知症患者の活動の質を高める可能性を示唆したと考える.
【だいちゃんの特徴】39×33×35cm,960gの認知症コミュニケーションロボット(The Harmony Inc.).「おはなしモード・うたモード」などの機能を搭載.
【事例紹介】A氏,90代女性,アルツハイマー型認知症.CDR:3点,要介護5.日中は病棟ホールにてティルト型車椅子上か病室で寝て過ごしている.
【方法】シングルケースデザイン(ABA型).基礎水準期(A1期)及び操作撤回期(A2期)は演者との対話のみ.病棟ホールで過ごすA氏に声を掛け,姿勢調節後に体調を確認.反応に応じて天候や季節の話題で対話を促した.介入期(B期)はだいちゃんの質問や歌を通じて介入.演者はコミュニケーションをサポート.実施回数は各期5回,1回10分程度.場所は病棟ホール.
【評価】介入毎に活動の質評価法(以下,A-QOA)を使用.総得点,各項目の点数をグラフ化.標準偏差帯法により「A1期の平均値の線」と「A1期の平均値+標準偏差の2倍値の線」の帯をグラフ上に作成.各期に差があるか目視法で判断した.
【経過】A1期(#1~5)及びA2期(#11~15):声掛けに対する返答は一言で,A氏からの主体的な言語表出は認めず,感情表出もあまり観察されない.しかし,反応の良い日は,演者に視線を向け「おはよう」と穏やかに微笑み,天候の話題で外に視線を向け「ほんとねぇ」などと返答する.反応の悪い日は,視線は殆ど合わず,発語や笑顔もなく,不機嫌さが目立つ.
B期(#6~10):言語・感情表出に大きな変化は無い.だいちゃんを見せながら声掛けし,あやして見せた.反応が良い日が多く「かわいいねぇ」と笑顔を見せ,自然にだいちゃんに手を伸ばし,赤子をあやすように抱いてみせた.演者より「子育ては大変でしたか?」と問いかけると「そうねー」と笑顔も見せた.反応が悪い日は一度のみ.発語は無いが,だいちゃんをじっと見つめる様子が観察された.
【結果】A-QOA:「開始:A1期1.4点,B期2.0点,A2期1.6点」「視線:A1期1.4点,B期2.8点,A2期1.4点」のみ,各期の平均値に差を認めた.その他の項目及び総得点は横ばいで推移.標準偏差帯法:帯の範囲外に介入期のデータがすべて存在する項目はなく,目視法では効果を認められなかった.
【考察】認知症は最重度に達すると運動・言語機能は崩壊し,心理・社会的介入は困難になる(松下,2007)と言われているように,A氏も重症度が影響し殆どの項目で各期に差を認めなかったと考える.一方で手を伸ばす,あやす,見つめるなどの反応の変化を認めた.これらの変化は「開始・視線」に該当,観察視点に主体性や興味の有無が含まれるため,A氏がだいちゃんに主体的に興味を示すサインであったと考える.重度認知症はA-QOAの得点も低くなりやすいため,このサインは重要な意味を持つと考える.そして変化の要因は対話のみには無い「だいちゃんの特性・作業療法士によるサポート」にあると考える.今回,目視法では効果を認めなかったが,重度認知症患者の活動の質を高める可能性を示唆したと考える.