[PN-4-6] 音楽大学入学から局所性ジストニア発症によりプロ演奏家を諦めるまでの過程
SCATと複線径路・等至性モデリング(TEM)による分析
[はじめに]ジストニアは中枢性の持続的な筋緊張を特徴とする運動異常症の一症候群である(目崎,2011).楽器演奏のジストニアは長年修練を積んだ楽器の演奏時のみに現れ,その他の動作時の出現が稀で,他者から理解されづらいことも特徴である.本研究ではプロ演奏家を目指し音楽大学に入学後,ジストニア症状が現れ,プロ演奏家を諦めたA氏の語りを複線径路・等至性モデル(TEM)に沿って分析し音楽教育における課題について考察した.
[方法]対象:A氏,20代,男性.プロ演奏家を目指し,音楽大学に入学後,1年時に右手に発症,3年時に左手に発症する.休学をし,ジストニア回復に専念するも症状の改善が見られず,プロの演奏家は諦め,介護職に就いた.方法:2023年12月に,プライバシーが守られる静かな個室にて個別的・半構造化インタビューを実施した.音声データを逐語録化し,質的データとした.質的データは,SCAT(Steps for Coding and Theorization)による定式的・明示的手続きから構成概念を生成し,それらについてTEMに沿って分析した.TEM図を作成するにあたり必要な概念である等至点(EFP),両極化した等至点(P-EFP),分岐点(BFP),必須通過点(OPP),社会的方向づけ(SD),社会的ガイド(SG)について,本研究では,EFP:人生を方向づける重要な選択,P-EFP:EFP以外の選択可能性,BFP:EFPを辞める選択,OPP:ジストニア発症とその経過,SD:ジストニア改善の阻害要因,SG:ジストニア改善の促進要因とした.所属機関の倫理審査承認後実施した(承認番号:医大研倫第23-033号).
[結果]構成概念は【】とした.A氏は中学生時にプロの演奏を間近で聴き,プロ演奏家を目指し音楽大学に入学した(EFP①).ジストニア発症は1年生時に右手,3年生時に左手であった.1年生時には【右手を保護した演奏】をし【一応演奏になる】状態だった(OPP①).【身体へ過剰な負荷をかける膨大な練習】が原因と考えた(SD①).【右手は鍼治療による症状の軽快】があったが(SG①),【右手の故障による左手の使用頻度の増加】からか(SD②),左手にジストニア症状が現れる.【聞くに堪えない演奏】となり【不快感がありながらの辛い演奏】だった(OPP②).師匠は【ジストニアを障害と捉えず】(SD③),【演奏が下手なことの言い訳】(SD④)と見做した.【左手は鍼治療による症状の改善なし】(SD⑤)であった.休学しリハビリに専念(EFP②)するも,【自主的なリハビリへの師匠からの根拠のなり強制的中止命令】(SD⑥)といった【師匠からの支配的関与】(SD⑦)があり,【繋がりが苦痛に変化】し,師匠の変更を余儀なくされた(EEP③).ジストニア症状の大きな改善もなかった.復学後の新しい師匠は【自由な学びを大切に考える】(SG②)人であった.ジストニア症状があるなかで臨んだ卒業試験(EEP④)は【難しいが弾きたい曲を選曲】し【演奏評価は低位】だったものの,【演奏の諦め】(BFP)となり,【生活のために介護職を行い,趣味で音楽を楽しむ暮らし】(EEP⑤)の選択に繋がった.
[考察]A氏は【身体の使用法の知識による予防】ができず,大学内に【ジストニアについての理解者がいない】【身体ケアの大切さを説く教員の不在】と語った.音楽大学におけるジストニア疾患の認識が30%,罹患が1.25%とされる(小仲ら,2015).認識の乏しさと一定数の罹患者数が窺われる.近年リハビリテーション手法の開発が検討されるも,難治性であるため,予防の知識は重要である.演奏家は小筋肉のアスリートと表現される(サックス,2014).OTにおいて今後重要な介入領域となると考えた.
[方法]対象:A氏,20代,男性.プロ演奏家を目指し,音楽大学に入学後,1年時に右手に発症,3年時に左手に発症する.休学をし,ジストニア回復に専念するも症状の改善が見られず,プロの演奏家は諦め,介護職に就いた.方法:2023年12月に,プライバシーが守られる静かな個室にて個別的・半構造化インタビューを実施した.音声データを逐語録化し,質的データとした.質的データは,SCAT(Steps for Coding and Theorization)による定式的・明示的手続きから構成概念を生成し,それらについてTEMに沿って分析した.TEM図を作成するにあたり必要な概念である等至点(EFP),両極化した等至点(P-EFP),分岐点(BFP),必須通過点(OPP),社会的方向づけ(SD),社会的ガイド(SG)について,本研究では,EFP:人生を方向づける重要な選択,P-EFP:EFP以外の選択可能性,BFP:EFPを辞める選択,OPP:ジストニア発症とその経過,SD:ジストニア改善の阻害要因,SG:ジストニア改善の促進要因とした.所属機関の倫理審査承認後実施した(承認番号:医大研倫第23-033号).
[結果]構成概念は【】とした.A氏は中学生時にプロの演奏を間近で聴き,プロ演奏家を目指し音楽大学に入学した(EFP①).ジストニア発症は1年生時に右手,3年生時に左手であった.1年生時には【右手を保護した演奏】をし【一応演奏になる】状態だった(OPP①).【身体へ過剰な負荷をかける膨大な練習】が原因と考えた(SD①).【右手は鍼治療による症状の軽快】があったが(SG①),【右手の故障による左手の使用頻度の増加】からか(SD②),左手にジストニア症状が現れる.【聞くに堪えない演奏】となり【不快感がありながらの辛い演奏】だった(OPP②).師匠は【ジストニアを障害と捉えず】(SD③),【演奏が下手なことの言い訳】(SD④)と見做した.【左手は鍼治療による症状の改善なし】(SD⑤)であった.休学しリハビリに専念(EFP②)するも,【自主的なリハビリへの師匠からの根拠のなり強制的中止命令】(SD⑥)といった【師匠からの支配的関与】(SD⑦)があり,【繋がりが苦痛に変化】し,師匠の変更を余儀なくされた(EEP③).ジストニア症状の大きな改善もなかった.復学後の新しい師匠は【自由な学びを大切に考える】(SG②)人であった.ジストニア症状があるなかで臨んだ卒業試験(EEP④)は【難しいが弾きたい曲を選曲】し【演奏評価は低位】だったものの,【演奏の諦め】(BFP)となり,【生活のために介護職を行い,趣味で音楽を楽しむ暮らし】(EEP⑤)の選択に繋がった.
[考察]A氏は【身体の使用法の知識による予防】ができず,大学内に【ジストニアについての理解者がいない】【身体ケアの大切さを説く教員の不在】と語った.音楽大学におけるジストニア疾患の認識が30%,罹患が1.25%とされる(小仲ら,2015).認識の乏しさと一定数の罹患者数が窺われる.近年リハビリテーション手法の開発が検討されるも,難治性であるため,予防の知識は重要である.演奏家は小筋肉のアスリートと表現される(サックス,2014).OTにおいて今後重要な介入領域となると考えた.