第58回日本作業療法学会

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[PN-9] ポスター:地域 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PN-9-6] 娘への介入が症例の意味ある作業を再獲得した報告

全介助からハンバーグが作れた関わり

野中 臨太郎, 牧山 大輔, 福留 綾 (イムス横浜狩場脳神経外科病院 リハビリテーション科)

【はじめに】退院直後,入院時見守りであったADLが在宅生活で全介助となった症例を訪問リハビリテーション(以下リハ)にて担当した.原因に娘が転倒を繰り返したくないため介助をするからであった.娘と一緒にリハを行い,段階的に作業を提案し,最終的に主婦の役割を再獲得したことを報告する.発表に関しては口頭で説明し本人に同意を得ている.
【症例情報】80歳代女性,病前は娘と孫の3人暮らし,役割は主婦業.脳梗塞により入院し4〜5ヶ月後退院.退院時の身体機能は左Br.stage上肢4手指4下肢3.高次脳機能障害は注意障害,失認等あり.家族指導,家屋評価を実施し退院.ADLは退院時FIM運動58点,認知31点であった. 退院後の目標は「料理がしたい」と主婦業再獲得である.訪問リハはADL,IADLの再獲得を目的に介入をしていく.
【経過】①生活混乱期,ADL介助状態(介入開始時~3カ月目)
訪問開始時,移動,トイレ,食事は介助.FIM運動36点,認知31点であり,自宅生活は病院でのADLより低下をしていた.理由は転倒によるが,リハでは屋内歩行は見守りで可能であり,見守りでできることを症例と娘に伝えても「怖い」「何も出来ない」と全く受けいれられない状況であった.そして症例家族も介護により疲労を感じていた.
②娘への介入.(訪問開始時3か月目~6か月)
症例のリハ介入だけでなく,娘の思いを聞くため,娘と傾聴の時間も取り入れた.
娘からは「母が転んでまた病気になることが嫌です」「なんでも手伝ってしまいます」と不安感が聞かれていた.そのため介入を娘と症例でADL動作を確認し,娘にその時の気持ちも聞きながらリハを行っていくこととした.繰り返すうち娘もスタッフの意見を聞けるようになり,できることが増えADL見守りとなり.FIM運動61点,認知32点と向上した.
③段階を追って料理へ(訪問開始時6か月目~1年半)
症例も娘も,疲労感もなくなり,次の目標を主婦業とし失敗体験にならないよう, 洗濯物たたみ,掃除,食器洗いと作業選択を慎重に段階づけしながら娘と行った.そしてADLは入浴以外自立, FIM運動75点,認知34点.日中一人で家事を行い過ごせるようになった.
症例から「料理がしたい」「娘の好きなハンバーグを作りたい」と発言あり,しかし不安な面の話もあり,症例と娘二人で作れるよう環境設定と動作指導を行った.包丁操作,肉をこねる動作,焼く動作を分けて練習し,娘にも手伝うときの注意点を伝え,最後は一連動作で「ハンバーグを作る」を行った. 症例から「娘の手伝いがこれからも出来そう」と娘は「安全な方法でできてよかった」.その後も安全な動作を指導し毎日行えるようになった.
【結果】ADLは入浴以外自立し,自宅で行う主婦業は,娘と行いつつも料理も可能となった.また買い物や庭で行う家庭菜園なども行えるようになり,2年でリハを終了した.
【考察】Kielhofnerによれば,環境の変化は習慣と役割に影響を及ぼすとしている.症例は退院による環境の変化で転倒し,恐怖心から習慣になっていた動作が行えず,介護される役割となった.また娘も不安から介護する役割となり,両者共に作業機能障害に陥っていた.症例,娘の両者を対象ととらえ介入することでADLは改善していった.
その後も作業選択で不安体験を踏まえ,段階づけを行い,成功体験とし作業を再獲得していった.古田は作業療法は満足や楽しみといった肯定的な心理状態を考慮した支援を行うことが必要としている.段階を追いながら行うことで両者の意味ある作業となり,主婦業の再獲得が出来たと考える.今回の症例を通じて,作業療法にとって,家族全体の役割,習慣をとらえた支援をしていくことが重要であると考える.