[PO-3-3] 病いの経験の意味から全体的な視点と社会参加についての考察
ベナーらの現象学的人間観の視点を用いて
【はじめに】リハビリテーションは,患者の社会参加を促進し医学的な側面だけでなく教育的・職業的・社会的な側面を持ち患者を全体的にみる視点を有している.リハビリテーション専門職は患者を全体的にみる視点として国際生活機能分類(ICF)を活用することが多いが,池田らの先行研究よりICFは内的経験から生じる参加制約の視点が希薄と批判がある.他方,榊原は病の経験の「意味」に注目し,その成り立ちを理解することが全体的にみることへ繋がり治療効果を高めると述べ,その方法としてベナーらの現象学的人間観を紹介している.今回,他院退院後に当院外来リハビリを行った患者の闘病記をもとにベナーらの現象学的人間観の視点で整理することで作業療法士(以下,OT)が患者を全体的に理解し社会参加へ繋げていく一助になることを目的に抽出した文章から考察を行った.
【患者紹介・方法】A氏,60歳代,男性,病前は会社の専務を務めていた.X年Y月,右被殻出血を発症,その1か月後に退院し復職を目的に当院の外来リハビリが開始となった.闘病記の構成は,入院編,自宅編,今後編,春待望編の4つの章で構成されており今回は入院編を分析した.闘病記の分析方法は,ベナーらの現象学的人間観の身体化された知性,背景的意味,関心,状況,時間性の5つの視点を用いて,闘病記に記された文章をそのまま抽出した.患者の同意,福島生協病院の倫理委員会の承諾を得て報告する.
【結果】身体化された知性は,シャワーを浴びた際に左半身の痺れが強くなる,左半側空間無視によってトイレの場所に気づかない,記憶障害のため約束を守ることができないであった,発症前には無意識に行っていた「記憶の上書き保存」にたびたび失敗した.背景的意味は,自身の障害を認識するにつれて,自己肯定感が下がったが,スタッフに支えてもらい,生きていて良かった,幸せだと思った.仕事や高次脳機能障害の改善はやってみないと分からないと考えるようになった.関心は,初期のゴールは復職であったがまずは,自分自身を受け入れて愛することから始めて次に病気との闘いのゴールはどこか?,闘病記を読むことで,障害は改善することを知り,復職からまずは自宅復帰へと変更した.状況は,脳卒中集中治療室,一般病棟であった.時間性は,発症前と同じ人間であるが,同じ人間ではない.
【考察】ベナーらの現象学的人間観はICFの患者を全体的に見る視点と共通しておりICFの内的経験から生じる参加制約の希薄さを補完できると考える.榊原は,数量的には捉えられない「病い」の意味を受け止めることが,患者を全体的にみることができると述べている.A氏の内的な経験は,今回の病気により病前の自分と違うことや生活上で問題無く遂行できていたことが出来なくなり,自己肯定感の低下が生じていた.その際に支えになったのが,A氏を取り巻く人々と闘病記の存在であり,それらがA氏自身に「やってみないと分からない」という挑戦的な気持ちが芽生えたと考える.その為,OTは自己効力感の向上を図りつつ客観的な数値のみで患者を捉えるのではなく,内的な経験を最大限考慮すること,患者の社会参加を促進するためにも挑戦的な気持ちを崩さないようにリハビリテーションを慎重に進める必要があると考える.今後の課題は,2つある.1つ目は,入院期間中のみの分析であるため社会的な接点が多い自宅編の分析を行うことでより内的経験から生じる参加制約の明確化が図れると考える.2つ目は,今回は抽出した文章からそのまま考察を行っているのみで,信頼性を高めるためにも今後は質的分析を行う必要がある.
【患者紹介・方法】A氏,60歳代,男性,病前は会社の専務を務めていた.X年Y月,右被殻出血を発症,その1か月後に退院し復職を目的に当院の外来リハビリが開始となった.闘病記の構成は,入院編,自宅編,今後編,春待望編の4つの章で構成されており今回は入院編を分析した.闘病記の分析方法は,ベナーらの現象学的人間観の身体化された知性,背景的意味,関心,状況,時間性の5つの視点を用いて,闘病記に記された文章をそのまま抽出した.患者の同意,福島生協病院の倫理委員会の承諾を得て報告する.
【結果】身体化された知性は,シャワーを浴びた際に左半身の痺れが強くなる,左半側空間無視によってトイレの場所に気づかない,記憶障害のため約束を守ることができないであった,発症前には無意識に行っていた「記憶の上書き保存」にたびたび失敗した.背景的意味は,自身の障害を認識するにつれて,自己肯定感が下がったが,スタッフに支えてもらい,生きていて良かった,幸せだと思った.仕事や高次脳機能障害の改善はやってみないと分からないと考えるようになった.関心は,初期のゴールは復職であったがまずは,自分自身を受け入れて愛することから始めて次に病気との闘いのゴールはどこか?,闘病記を読むことで,障害は改善することを知り,復職からまずは自宅復帰へと変更した.状況は,脳卒中集中治療室,一般病棟であった.時間性は,発症前と同じ人間であるが,同じ人間ではない.
【考察】ベナーらの現象学的人間観はICFの患者を全体的に見る視点と共通しておりICFの内的経験から生じる参加制約の希薄さを補完できると考える.榊原は,数量的には捉えられない「病い」の意味を受け止めることが,患者を全体的にみることができると述べている.A氏の内的な経験は,今回の病気により病前の自分と違うことや生活上で問題無く遂行できていたことが出来なくなり,自己肯定感の低下が生じていた.その際に支えになったのが,A氏を取り巻く人々と闘病記の存在であり,それらがA氏自身に「やってみないと分からない」という挑戦的な気持ちが芽生えたと考える.その為,OTは自己効力感の向上を図りつつ客観的な数値のみで患者を捉えるのではなく,内的な経験を最大限考慮すること,患者の社会参加を促進するためにも挑戦的な気持ちを崩さないようにリハビリテーションを慎重に進める必要があると考える.今後の課題は,2つある.1つ目は,入院期間中のみの分析であるため社会的な接点が多い自宅編の分析を行うことでより内的経験から生じる参加制約の明確化が図れると考える.2つ目は,今回は抽出した文章からそのまま考察を行っているのみで,信頼性を高めるためにも今後は質的分析を行う必要がある.