第58回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-8] ポスター:教育 8

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-8-4] 作業療法士経験を活かした特別支援教育実践例

重度知的障害児における箸操作獲得までの過程

秋元 裕太朗 (群馬県立特別支援学校)

【はじめに】
 作業療法士経験を活かした特別支援学校での教育の実践報告を行う.本報告に関して,本人と保護者に説明を実施し了承を得た.
【事例紹介】
特別支援学校高等部3年男子.知的障害(療育手帳A2).コミュニケーションは単語レベルの発語のみで「はい」等の返事,「おはよう」「さようなら」等のあいさつ,「トイレ」等の小・中学部時に習得した一部の単語レベルの言語表出が可能.四肢体幹のROM制限はなく,MMTは四肢体幹筋群5相当.筋緊張は安静時,運動時ともに過緊張を呈し,全体的に動きが拙劣で硬い.手指機能は,指の集団屈伸,内外転などの反復運動の模倣が可能.指折りは拙劣ながら分離運動も可能.学習状況では,知的水準の程度から,書字が困難なため様々な授業等で書字などの学習経験はほとんど行っておらず,食事以外のADL面,心理的な安定,コミュニケーション方法等の自立活動よりの学習が主である.ADLは,食事はスプーンで摂取可能,1年時より学校での昼食時のみバネ付き箸を使用して摂取を行っているが,食べこぼしが多く食後は床や机の上に食べ物が散乱していることが多い. 肘をついたり,足を組んだりして,机に対して体や頭頸部が横を向いて食べることが多い.食具は,スプーン,フォークを主に使用している.対象物への注視ができず,正面を向いて摂取できないことに加え,皿や茶碗を持って食べることができるが手元を見ないことで食べこぼしが多く,食後の机の上は常に汚れている.更衣動作,トイレ排泄などは一部介助から見守りで遂行可能.
【支援内容】
 3年時(4月)に担任として支援を行う.年間の自立活動の目標を「箸で食事摂取ができ,食べこぼしが少なくなる」に設定.1学期の介入は,ペンの把持や操作経験,2学期前半で割り箸を使った練習,2学期後半は実際の食事場面での箸操作を開始.3学期には通常箸を使用した練習を実施.
【経過と結果】
 箸操作獲得のための介入は月~金曜日の週5回,「日常生活の指導」と「自立活動」の授業時間に1日5分~10分で実施.1学期介入当初は静的及び動的な三指握りの習得に向けたペンや鉛筆を使った殴り書きから開始した.静的三指握り及び動的三指握りの獲得を目標に,ペンや鉛筆を使って殴り書きや塗り絵などを行った.また,実際の食事場面でのスプーン操作では手内回内握りから三指握りでの摂取へ移行した.2学期からは割り箸を使って,大きくカットしたスポンジのつまみ練習を実施し,箸操作の向上に伴いスポンジを小さくした.実際の食事場面での割り箸操作は,数回掴み損ねてしまうと諦めて手づかみで食べてしまう場面もあったが,操作の向上に伴い手づかみは軽減した.3学期では通常箸を使った箸練習へ移行した.練習でつまむものはより小さいものへ変更し,最終的には大豆などもつまむことができるようなった.実際の食事では,スプーンでの摂取から,つまみ損なうことが少なかった割り箸を使って食事を行うようになった.スプーン使用時は掬った食べ物を落としてしまうことで机を汚すことがあったが,箸操作ではつまみ損ないが少なく,口までのリーチの過程で箸先から食べ物を落としてしまうこともなくなったため,食べこぼしも軽減し,きれいに食事をすることができるようになった.
【考察】
 特別支援学校では障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とし,日々教育活動にあたる.自立活動の「身体の動き」に該当するADL面への介入及び,「環境の把握」の固有各や認知面への支援により,長年未習得であった箸操作が可能となり,ADL・QOLの向上に繋がったと考えられる.