日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT35_1AM2] 地球人間圏科学研究のための加速器質量分析技術の革新と応用

2014年5月1日(木) 11:00 〜 12:45 311 (3F)

コンビーナ:*中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)、松崎 浩之(東京大学大学院工学系研究科)、笹 公和(筑波大学数理物質系)、永井 尚生(日本大学文理学部)、南 雅代(名古屋大学年代測定総合研究センター)、座長:中村 俊夫(名古屋大学年代測定総合研究センター)

12:00 〜 12:15

[HTT35-12] 最終退氷期から完新世初期にかけての南極氷床コア中の宇宙線生成核種36Cl/10Be比

*笹 公和1黒住 和奈1末木 啓介1高橋 努1松四 雄騎2戸崎 裕貴3堀内 一穂4内田 智子5松崎 浩之6本山 秀明7 (1.筑波大学、2.京都大学、3.産業技術総合研究所、4.弘前大学、5.東北大学、6.東京大学、7.国立極地研究所)

キーワード:36Cl/10Be, 宇宙線生成核種, 加速器質量分析, 年代測定, 氷床コア

宇宙線が地球大気に入射後,大気中に存在するN,O,Arなどの原子との核破砕反応によって宇宙線生成核種が生成され,氷床上に降下・堆積していく.代表的な宇宙線生成核種には,14C(半減期:5.73 × 103 yr),10Be(半減期:1.36 × 106 yr),36Cl(半減期:3.01 × 105 yr)などが存在する.本研究では,南極ドームふじ基地で掘削された氷床コアの切削片を用いて(Motoyama et al., 2007),最終退氷期から完新世初期の気候変遷期から気候安定期にかけての36Clについて測定を行った.10Be以外に36Clを測定することで,36Cl/10Be比を用いた古い氷床コアに対する年代測定への適用について検討した. 本研究では,氷床コア中の10.55 - 18.42 kyr b2k間の36Cl の測定を行い,降下フラックスの復元を行った (Sasa et al., 2010).その結果,36Clの濃度は,0.21 - 1.80 × 104 atoms g-1の範囲となり,降下フラックスは,0.54 - 3.25 × 104 atoms cm-2 yr-1の範囲を示した.本研究と同じ氷床コアを用いて弘前大学の研究グループが測定した10Beと比較した結果,完新世初期の間では,36Clと10Beの変動は,ほぼ一致していた.また,11.22 - 11.37 kyr b2kの降下フラックスの増大は,1645 - 1715 C.E.のマウンダー極小期の宇宙線降下フラックスの変動と類似していたことから太陽活動の変動が原因であると考えられる.この降下フラックスの増大があったにもかかわらず,36Cl/10Be比が0.10 ± 0.01と一定を示し,大気中の36Cl/10Be比の理論値である0.11とほぼ一致した.よって,36Cl/10Be比を用いた放射年代測定の初期値として36Cl/10Be = 0.10 ± 0.01が 利用可能であると確認できた.完新世以前では,36Cl/10Be比が理論値の0.11よりも低くなった.完新世以前には,最終退氷期が存在する.最終退氷期は,極地からの氷山の流出が起こり,海水面の上昇などがあり,気候が安定していなかった期間であるため,ベリリウムと塩素の輸送過程が異なり,36Cl/10Be比が理論値よりも低くなったと考えられる.したがって,36Cl/10Be比は宇宙線変動とは独立し,大気循環の変動を反映しているとも考えられる.