JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 成層圏―対流圏相互作用

コンビーナ:坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)、木下 武也(海洋研究開発機構)、Pu Lin(Princeton University/NOAA Geophysical Fluid Dynamics Laboratory)、Peter Hitchcock(Cornell University)

[AAS08-04] 2019年南半球成層圏突然昇温後の負の南極振動の持続

*小林 ちあき1前田 修平1 (1.気象研究所)

キーワード:成層圏突然昇温、南極振動、持続する対流圏の帯状平均異常

2019年9月初めに、17年ぶりに南半球成層圏で突然昇温(SSW)が発生し、その後、対流圏では負位相の南極振動(AAO)が10月半ばから12月末まで卓越・持続した。本研究では、気象庁55年長期再解析データ(JRA-55)を用いて、対流圏内における負のAAOの持続とSSWとの関係を、波‐平均流相互作用の観点から調べた。解析には、等温位面上の質量重み付き平均(MIM)法を用いた。これにより、地上付近のE-Pフラックス発散や中緯度への寒気流出をもたらす対流圏内の子午面循環の偏差も評価できる。平年値は1981-2010の30年平均値で、それからのずれを偏差とした。

まず、SSWに伴う成層圏から対流圏にかけての極渦の強弱の時間変化を見るために、南緯60~90度で平均した帯状平均高度場の規格化偏差の時間高度断面図を調べた。9月初めのSSW以後、極渦の弱い状態が成層圏上部で持続し、偏差の中心は10月半ば以降に成層圏下部に下降する。同時に対流圏で1σを超える正偏差となり、その状態が強弱を繰り返しつつ12月いっぱい続いている。300hPa高度偏差の時間緯度断面図を見ると、10月半ばからの極渦の弱化と対応して、ほぼ南緯60度以南の高緯度で高度が高く、南緯35~60度の中緯度で高度が低く、負のAAOが持続していることを示している。

負のAAOが持続した期間(10/16-12/31)の平均場について、波‐平均流相互作用の観点で調べる。2019年の東西風は気候値に見られる成層圏の極夜ジェットがない。対応して、平年では存在する極夜ジェットに沿う導波管がなく、屈折率で見ると(図略)、対流圏からのプラネタリー波が鉛直伝播できない(あるいはしにくい)領域が対流圏のジェット気流の軸の上の100~200hPaあたり、軸の極寄りの南緯40~70度あたりに拡がっている。この状況は平年では成層圏の最終昇温後の12月の状態に似ている。対応して、高緯度側での対流圏から成層圏へのE-Pフラックスの鉛直伝播が弱く、対流圏上部でより収束している。一方、対流圏でジェット気流が低緯度側にずれ、対応してE-Pフラックスの南北分布も低緯度側にずれ、偏差では南緯40度を中心に上向き、50度の対流圏上層で極向き、60度付近で下向きとなっている。この偏差の多くは傾圧不安定擾乱によるものと思われ、ジェットの南偏の持続に寄与している。これらの波の変化によりE-Pフラックス収束は、南緯40~70度にかけての対流圏内で強く、その影響で対流圏の中緯度の直接循環が強くなっている。これにより、高緯度の寒気がより低緯度に流出し、負のAAOの持続に寄与していると考えられる。

2019年の南半球SSW後におきた対流圏の負のAAOについて調べた。下部成層圏で強い偏差の持続がみられ、対流圏内において波-平均流相互作用による影響がみられた。これらの過程は、季節予報の時間スケールの予測可能性のソースとなりうるので、今後はこのSSWの季節予報への影響を調べたい。