JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 古気候・古海洋変動

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、Benoit Thibodeau(University of Hong Kong)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS08-P28] 古気候復元を目指した花粉安定同位体比と気候の関係について

*山崎 彬輝1山田 圭太郎2大森 貴之3北場 育子2中川 毅2 (1.福井県里山里海湖研究所、2.立命館大学古気候学研究センター、3.東京大学総合研究博物館)

キーワード:花粉、安定同位体、古気候

はじめに
陸域の詳細な古気候情報は、大気や海洋などの地球システム内の相互作用を理解するために欠かせない。なかでも中緯度の陸域の古気候情報は、人間活動とも密接に関係しており重要である。化石花粉分析は陸域の古気候を検討するための代表的な手法であり、これを用いた多くの古気候・古環境の復元が行われてきた(Tarasov et al., 2011; Kigoshi et al., 2014など)。また、化石花粉分析に基づく古気候の定量的な復元は従来から試みられているが、気候変動に対する植生の応答に時間差が生じること(Williams et al., 2002)などの理由から、氷床や海洋底コア、および鍾乳洞などの高品質なデータセットとの同時性の議論が困難であった。このような背景の中で、堆積物中の化石花粉の安定同位体比を用いた古気候の復元の可能性については従来から指摘されてきた(Loader and Hemming, 2004)。近年、効率的な高純度の抽出技術が確立したことで(Yamada et al., 2019, INQUA)、堆積物中の化石花粉の安定同位体比を用いた古気候復元が現実的なものになった。
そこで本研究では、堆積物中の化石花粉の安定同位体比に基づいた古気候復元を目指して、現生の樹木花粉と気象観測データを用いて、気象変化に対する現生花粉の安定同位体比の応答を評価した。

手法
ヨーロッパにおける研究で、花粉の水素同位体比と降水量の間に相関が示唆されているが(Loader and Hemming, 2004)、データ点が少なく、詳細な検討はなされていない。そこで、安定同位体比に影響を及ぼす可能性のある要素(気温、降水量、標高、緯度など)を考慮し、日本各地から採取可能なスギ花粉を用いて、酸素同位体比を測定した。測定には東京大学総合研究博物館の熱分解型元素分析計(Thermo Scientific社製)を用いた。気象観測データは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)のメッシュ農業気象データを使用した。このデータは、アメダスの気象観測記録および平年値メッシュデータに基づき標高補正を加えたうえで、1kmメッシュの気象を推定している(清野, 1993;大野ほか, 2016)。

結果および考察
同位体分析を行った地点は125地点で、年間平均気温12~17 ℃、降水量1600~4000 mm、標高0~1000 m、緯度32~39 °の地域をカバーした。平均気温、降水量、相対湿度などの気象観測データとの相関関係を検討した結果、花粉の酸素同位体比と年平均気温に正の相関(r=0.66)がみられた。また、花粉採取地点の標高による系統的な同位体比傾向の違いがみられた。本研究によって、花粉の酸素同位体比が気温と相関していることが示唆された。応答メカニズムについての理解を深めるとともに、標高による同位体比変動を補正することで、花粉の安定同位体比から気温を定量的に復元できる可能性がある。