日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 全球・海盆規模海洋観測システムの現状、研究成果と将来展望

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.06

コンビーナ:細田 滋毅(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、増田 周平(海洋研究開発機構)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、藤木 徹一(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[AOS16-P02] 気象庁東経137度定線における黒潮流量の時間変動

*川上 雄真1、中野 俊也1、小嶋 惇1、村上 潔1、杉本 周作2 (1.気象庁、2.東北大学)

キーワード:黒潮輸送量、気象庁東経137度定線、アリューシャン低気圧

北太平洋亜熱帯循環の西岸境界流である黒潮は、日本の南岸に沿って北東方向に流れている。熱帯域に起源をもつ黒潮は、低緯度域から中緯度域へと熱を輸送する役割を担い、北太平洋における海盆規模の気候に影響を及ぼしている。そのため、黒潮流量の変動を監視し、そのメカニズムを理解することは、気候変動を理解する上で重要といえる。

これまでの研究により、黒潮の流量は、冬季に北太平洋北部で発達するアリューシャン低気圧の変動を反映した大気場の変化に応答して10年や20年の時間スケールで変動していることが報告されている。しかしながら、過去の研究で用いられた黒潮流量の時系列長は、その変動の時間スケールに対して必ずしも十分でない、という問題があった。そこで本研究は、気象庁の東経137度定線における長期観測資料を用いて黒潮流量の時間変動を調べた。調査期間は、1972年以降の47年間である。

黒潮の流量は、地衡流速度の東西成分の鉛直方向および南北方向の積算で見積もった。黒潮の北および南には冷水渦や黒潮反流があり、それらが西向きに海水を輸送しているが、本調査ではそれら西向きの輸送量を差し引いた正味の東向き流量に注目した(以下、これを単に黒潮流量という)。

黒潮流量は5-6年、10年、および20年の3つの時間スケールで変動していた。5-6年周期の変動は1985年以前および2000年以降に目立っており、一方で、10年周期の変動は2000年以前に顕著であった。また、20年周期の変動は、弱まりながらも解析期間を通して見られていた。先行研究に倣い、冬季の大気強制場に注目して黒潮流量の変動要因を調べたところ、黒潮流量は北太平洋中央部における冬季の風応力カール(WSC)の変動に2年遅れて応答していることが確認された。強制域として検出された海域は、冬季に負のWSCが最大になる海域と重なっており、また、2年のラグは大気の強制によって励起されたロスビー波が伝播するのに要する時間と整合的であった。

 次に、冬季WSCの変動について調べた。北太平洋亜熱帯循環域において、冬季WSCに対してEOF解析を行ったところ、第一モードとしてアリューシャン低気圧の南北位置の変化を反映する変動が得られた。そして、アリューシャン低気圧の南北位置には、一部期間(1980-1995年)を除き、5-6年周期の変動がみられた。一方、第二モードとして取り出された変動は、アリューシャン低気圧の強度変化をよく反映していた。アリューシャン低気圧の強度は、一部期間(1970-1995年)で10年周期の成分を持ちつつ、20年の周期で変動していた。続いて、黒潮流量の変動を引き起こす北太平洋中央部の冬季WSCとこのEOF解析で得られた第一モードおよび第二モードの関係を、相関解析によって調べた。その結果、アリューシャン低気圧の強度を反映した第二モードとの間に有意な相関係数が得られた。アリューシャン低気圧の強度(や黒潮流量)に10年周期の変動がみられる1995年以前は、特に対応がよかった。一方で、アリューシャン低気圧の南北位置変動を反映した第一モードとも、期間によっては比較的よい相関係数が得られた。第一モードとの対応の良い期間は、アリューシャン低気圧の南北位置(および黒潮流量)に5-6年周期の変動がみられる期間と一致していた。つまり、黒潮流量の変動をもたらす北太平洋中央部の冬季WSCは、アリューシャン低気圧の変動の影響を強く受けており、10年や20年の時間スケールではその強度変動を、5-6年の時間スケールではその南北位置の変動をよく反映している。

これら一連の結果から、黒潮流量の10年周期および20年周期の変動は、アリューシャン低気圧の強度変動を反映したものであり、一方で、5-6年周期の変動は、アリューシャン低気圧の南北位置変動の影響を受けていることが指摘される。黒潮流量の変動周期の変化は、その変動の起源であるアリューシャン低気圧の変動周期の変化に起因すると考えられる。