日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 海洋化学・生物学

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:三角 和弘(電力中央研究所 環境科学研究所)、安中 さやか(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[AOS17-P01] 日本海固有水でみられた酸素減少と酸素極小層の浅化

*笹野 大輔1、永井 直樹1、中野 俊也2、青山 道夫3,4 (1.気象庁、2.長崎地方気象台、3.筑波大学、4.海洋研究開発機構)

キーワード:貧酸素化、日本海固有水、長期変化

日本海は閉鎖性の高い縁辺海であり、300m以深は日本海固有水とよばれる低温、低塩分、高酸素の均一な海水が占めている。日本海固有水は1950年代以降、水温上昇および溶存酸素量(O2)減少が報告されている。日本海固有水形成域(ウラジオストク)における冬季の海面冷却が強い年が減少し、低温で高O2の新たな日本海固有水が供給されにくくなっているためと示唆されている。筆者らはこれまでに、2010年~2016年の気象庁の高精度海洋観測データを用いた解析を行い、日本海盆北東部から大和海盆にかけてのO2減少を報告した。この中で、2010年から2016年にかけて、酸素極小層が2000mから1000m付近の浅い深度にシフトしたことを報告したが、その原因は明らかになっていない。今回、我々は観測期間を2010~2020年の11年間に延長したデータを用いて、水温、塩分、溶存酸素および栄養塩の長期変化について解析を行った。
日本海盆北東部の底層水(深度2500m以深)において、水温およびO2はほぼ単調に変化しており、その速度はそれぞれ平均+0.0016 °C/yrおよび–0.55 μmol/kg/yrであった。栄養塩も増加しており、時間経過に伴い有機物分解が進んだと示唆される。また、大和海盆の底層水でも、ほぼ同様の速度で水温上昇およびO2減少がみられた。日本海固有水形成域での新たな底層水の形成が減少していることが原因と考えられる。
日本海盆の日本海固有水では、深度600mでO2減少速度が最大となり、2.99 μmol/kg/yrであった。この時、硝酸塩やリン酸塩は、O2の変化量に対応して有意に増加していた。この深さは、上部日本海固有水の下端にみられる塩分極大(HSIW: High Salinity Intermediate Water)に相当する(塩分>34.07、 σθ=27.32 kg/m3)。HSIWではこの10年で塩分が低下していた。HSIWは、極前線の北側へと運ばれた対馬暖流水が冬季に冷却されて形成されると言われている。起源水の塩分低下によって新たな中層水の沈み込み量が減少し、水塊年齢の増加に伴って酸素消費が進んだことがO2減少の原因と考えられる。一方、大和海盆における日本海固有水上端部では、700m付近で減少速度が最大(1.32 μmol/kg/yr)であったが、その速度は日本海盆の半分以下であった。HSIWは主に東部日本海盆に分布することが知られており、大和海盆ではHSIWの影響が少ないためと考えられる。
このように、底層水と中層水でO2減少の要因が異なることが示された。それぞれの深度でO2減少速度が異なるため、結果としてこの10年で酸素極小が浅い深度にシフトして見えるようになったものと示唆される。

添付図は、日本海盆(JB:青)および大和海盆(YB:赤)の各深度面における(a)ポテンシャル水温、(b)溶存酸素、(c)硝酸塩および(d)ケイ酸塩の長期変化を示す。細線は、各長期変化の95%信頼区間を示す