日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG04] 地球史解読:冥王代から現代まで

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.26 (Zoom会場26)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:多田 賢弘(千葉工業大学地球学研究センター)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

11:30 〜 11:45

[BCG04-10] 20億年前のZaonega層(Russia)窒素同位体組成と前期原生代微生物活動と海洋環境への制約

★招待講演

*笹木 晃平1、石田 章純1、橋爪 光2、掛川 武1 (1.東北大学、2.茨城大学)

キーワード:段階燃焼法、初期原生代、窒素同位体

ロシアの約20 億年前のZaonega層堆積岩はLomagundi-Jatuli 炭酸塩炭素同位体変動とほぼ同時期の富有機物砕屑性堆積物でありシュンガイト(固化石油)も産することで知られている。前期原生代の大気圏―水圏―生物圏間の炭素循環を考える上で鍵となる地層である。過去の研究でZaonega層に記録された炭素同位体変動は窒素同位体変動とリンクしているとされているが、分析試料の形態にバイアスされている可能性もあり再検討が必要である。堆積物の窒素同位体組成は炭素同位体以上に微生物生態にリンクしており、より詳細な窒素同位体分析によって前期原生代微生物生態系に制約を与えることも可能である。

そこで本研究ではZaonega層の堆積岩に対して段階燃焼窒素同位体比分析法を用いて、炭素,窒素,アルゴンの解放量,および窒素同位体比(δ15N),40Ar/36Ar比(Ar比)の算出を行った。分析は砂岩と黒色頁岩に対して行った。予備分析として砂岩および黒色頁岩の各1試料で,400℃から800℃までを50℃刻みに、最後に1200℃で酸素雰囲気下にて燃焼させ,それぞれの燃焼温度帯で解放される窒素及びアルゴンを測定した(fine step)。得られた結果から400℃, 500℃, 600℃, 700℃, 1200℃の燃焼温度で主要な窒素,アルゴンの解放あるいはδ15N値変化が観測されることが明らかになり,その後の黒色頁岩9試料に対する分析ではこの簡略版の燃焼温度帯(rough step)で、δ15N値を測定した。

Fine step分析の結果、砂岩, 黒色頁岩では共に似たような傾向を示すことがわかった。窒素と炭素が同じ温度帯で解放され(主に650-700℃)、その時のδ15N値はそれぞれ~4‰以下だった。一方で有機物の燃焼温度帯よりも低温域および高温域では高Ar比を伴ったδ15N値(>10‰)得られた。この高δ15N値は粘土鉱物層間窒素に由来することを示す。本研究で得られたδ15N値はZaonega層の先行研究で報告されている中でもっとも高い値であるとともに、そのホストが粘土である可能性を初めて示した。この結果は陸域の風化帯から堆積物の続成作用時に酸化的環境における生物窒素サイクル(BNC)で生成されたアンモニアが粘土鉱物にトラップされたことを示唆している。

黒色頁岩9試料を分析しδ15N値の層序プロファイルを作成した結果、有機物窒素のδ15N値は~0から~+5‰の範囲, 粘土鉱物に由来する窒素のδ15N値は~0から~+12‰の範囲で下部から上部にかけて変化していた。それぞれの時期の窒素の海水中リザーバーの窒素同位体が異なり、時間とともに15Nに富むようになったことを示す。海水が還元的環境から酸化的環境への変化と解釈できる。

以上の結果から、約20億年前の酸化的な陸域および海洋表層の形成と、そこでの窒素サイクルが明らかにされた。このような環境は陸域の風化に伴う栄養塩元素の供給量増加や有光層での一次生産の増加、chemoclineの発達に伴う生態系の繁茂などを引き起こす可能性がある。本研究は初期現生代の特異的な海洋環境の解明に寄与する。