日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 原子力と地球惑星科学

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.12

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所)

17:15 〜 18:30

[HCG23-P02] 化石海水分布の把握を目的としたMT法による三次元比抵抗分布

*佐藤 菜央美1、早野 明1、手島 稔2、根木 健之2、山根 照真3、川崎 慎治3 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、2.日鉄鉱コンサルタント株式会社、3.株式会社地球科学総合研究所)

キーワード:化石海水、MT法、新第三紀堆積岩、地層処分

はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業のサイト選定において、水理場の観点では、「閉鎖後の処分場とその周辺の地下水流束が小さく、緩慢であること」が好ましい地質環境条件とされている [1]。そのため、概要調査では、地下水の流れが非常に遅い領域(以下、低流動域)の分布を調査・評価する技術の確立が不可欠である。
低流動域の存在を示す証拠として、化石海水の存在がある。化石海水とは、堆積時の海水が埋没続成過程で変化し、その後、天水浸透の影響を受けていない地下水である [2]。このような化石海水が存在する地質環境は、極めて長い地史の中で隆起・侵食や海水準変動の影響を受けていないと考えられる。北海道北部の幌延地域には、地下深部に化石海水が残留していることが知られている [3]。このことから、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)では、幌延地域を対象として化石海水の三次元分布を調査・評価する技術の高度化に取り組んでいる。
化石海水の三次元分布を推定する際、岩盤の比抵抗が得られるMT(magnetotelluric)法が有望な手法の一つと考えられる。岩盤の比抵抗は、岩石の比抵抗と間隙水の比抵抗を反映した値である。幌延地域の場合、地質的に均質かつ厚い新第三紀の泥岩が分布しているが、化石海水を含む間隙水の塩濃度が高く比抵抗が低いことから、岩石の比抵抗の影響をほぼ無視できる [4]。したがって、電磁探査により得られる比抵抗分布から化石海水の三次元分布を推定できると考えられる。そこで本研究では、化石海水の三次元分布を把握することを目的としたMT法を実施した。本報では、MT法の結果について速報を報告する。

実施内容
原子力機構の幌延深地層研究センター(以下、センター)周辺で実施された既往の電磁探査のほとんどは、可探深度が浅いAMT(audio-magnetotelluric)法を適用しており、地下深部に存在していると考えられる化石海水に対して探査深度が必ずしも十分ではなかった。
そこで本研究では、より深い領域の比抵抗分布を精度よく推定するために、可探深度が深いMT法を適用した。調査範囲はセンターを中心とした3 km四方を設定した。三次元的な広がりを推定するために、調査範囲内に60点の測定点を可能な限り格子状に配置し、各測定点においてMT法データを取得した。測定後は既往電磁探査の39点を含めた99点で三次元インバージョン解析を行い、比抵抗分布を推定した。

主な結果及び今後の課題
調査範囲の比抵抗は、主に泥岩・頁岩などから構成される幌延地域の地質と整合して、全体的に低比抵抗(1~50 Ω・m)を示していた。比抵抗の変化は、地質構造と調和していた。深度約50 m以浅の地表付近では概ね10 Ω・m以上の比較的高い値を示しており、深度約50~1000 mでは1~5 Ω・mの比較的低い比抵抗の領域が広く分布していた。既存のAMT法と同様に、本調査においても大曲断層と推定されている領域では、地表から陥入するように周囲よりも高い比抵抗値が認められた [5]。これは、断層に沿って天水が浸透していることを示唆している。比較的高い比抵抗は声問層と稚内層の境界付近でも観測された。また、南西に分布する上位の地層である勇知層では高比抵抗を示し、天水の浸透が示唆された。
一方、約1000 m以深では深度と共に比抵抗が高くなる傾向がみられた。この理由として、解析条件の影響が考えられ、各地層の層厚を考慮して解析条件を見直す余地がある。また、既存のボーリング調査で得られた水質データを比較することで、比抵抗分布を化石海水の分布の推定にどのように適用するかを検討することが今後の課題である。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(岩盤中地下水流動評価技術高度化開発)」の一環として実施したものである。ここに厚く感謝の意を表します。

[1] 原子力発電環境整備機構,2011,NUMO-TR-11-01.
[2] 寺本ほか,2006,応用地質,47,68-76.
[3] 村松ほか,2016,温泉科学,65,216-233.
[4] 水野ほか,2017,58,178-187.
[5] 石井ほか,2006,112,301-314.