17:15 〜 18:30
[HDS08-P06] 津波時の避難行動の励起に対する同調性バイアスの効果-2019年山形県沖地震時の石川県能登町における住民の避難行動から-
キーワード:津波、避難行動、同調性バイアス、山形県沖地震
【調査目的】
日本列島は世界有数の災害大国であり,中でも2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に代表される津波災害は被害が大きいもののひとつである.津波災害に対する防災行動の特徴として,津波の到達に先行する地震動や津波情報を利用して避難を行えば,人的被害を軽減することができることがあり,避難を促すための研究や活動が数多く行われている.
これまでの研究では,避難行動と被災経験・防災意識の関係について心理面からの研究もなされており,「避難遅れ」や避難しない人が発生する要因の一つとして,人間の認知バイアスが大きく影響していることが明らかにされてきた.
そこで本研究では,2019年6月18日22時22分に発生した山形県沖地震において,震度3と微弱な揺れで津波注意報の発令にとどまったにもかかわらず,500人以上が避難した石川県能登半島北部に位置する能登町松波地区とその周辺の津波浸水想定区域を含む地域を対象にアンケート調査を実施し,津波時の避難行動に対してどのように認知バイアスが影響を与えたのかに注目して調査・分析を行った.なお,調査対象地域周辺は2007年能登半島地震において震度6弱を観測している地域であり,東日本大震災後に改定された津波ハザードマップにおいて浸水対象地域とされている.
【調査結果】
アンケートは地区内の999世帯を対象に各世帯1部を郵送で配布・回収を行った.回収数は255(25.5%)であり,男性55%(N=141),女性40%(N=103),その他4%(N=11)であった.年齢別では世帯代表に回答を依頼したことに加え, 50%近い地域全体の高齢化率を反映して,60歳以上の高齢者が65%(N=165)を占めた.
避難行動の実態として,アンケートに回答した4人に1人が避難行動をとっていたことがわかった.回答者を「①能登半島地震時も山形県沖地震時も避難した」,「②能登半島地震時は避難したが山形県沖地震時は避難しなかった」,「③能登半島地震時は避難しなかったが山形県沖地震時は避難した」,「④能登半島地震時も山形県沖地震時も避難しなかった」の4パターンに分類すると,それぞれ①4%(N=9),②3%(N=6),③19%(N=43)④75%(N=174)となり,能登半島地震時には避難しなかった人が今回は避難したケースが一定程度認められた.すなわち,これらの住民は2007年から2019年の間に意識や環境を変化させていたことが考えられる.またこの中に自力避難困難者がいる家庭も含まれている(43世帯中15世帯)ことから,多少の無理をしてでも避難を行ったことが推測できた.
この③に該当した住民に注目して,避難をした理由を複数回答で尋ねると,「揺れから念のため(20人)」「情報から念のため(19人)」「浸水想定区域内にあるため(16人)」についで「避難するよう指導されたから(8人)」「近所の人が避難していたから(8人)」「誰かに言われたから(7人)」という回答が得られた.危機感や情報に加え,「周囲の人の避難行動・他人からの声掛け」といった「同調性バイアス」が働いていたことが確認できた.さらに,分類した①~④の中で同調性バイアスが働いていた人の割合が最も高かったのは③の該当者で,その割合は30%という結果であった.
【考察】
防災のコンテクストにおいて,同調性バイアスはしばしば正常性バイアスとともに,住民が避難をしない理由として取り上げられている.しかし,適切な働きかけを通して同調性バイアスを意図的に作用させることで,主体的に避難行動を起こさない人を避難させられる可能性があることを指摘することができる.このことからも,地域の防災力を高めていくにあたっての,緊急事態時に避難を呼びかける地域防災のリーダー的存在や日常的に住民同士の意思疎通ができる地域コミュニティといったソーシャルキャピタルの重要性が示されたと言えるだろう.
これから起こるとされている大地震や津波,その他災害への物質的な対策を実行することに加え,緊急事態時に我々人間が陥りやすい心理状況について個人が認識しておくことも,防災・減災において重要事項である.災害が多発する日本では,防災教育の必要性も指摘されており,それに伴う国民の防災意識の向上が期待されている.防災教育の一環として,認知バイアスについても学ぶ必要があるだろう.
日本列島は世界有数の災害大国であり,中でも2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に代表される津波災害は被害が大きいもののひとつである.津波災害に対する防災行動の特徴として,津波の到達に先行する地震動や津波情報を利用して避難を行えば,人的被害を軽減することができることがあり,避難を促すための研究や活動が数多く行われている.
これまでの研究では,避難行動と被災経験・防災意識の関係について心理面からの研究もなされており,「避難遅れ」や避難しない人が発生する要因の一つとして,人間の認知バイアスが大きく影響していることが明らかにされてきた.
そこで本研究では,2019年6月18日22時22分に発生した山形県沖地震において,震度3と微弱な揺れで津波注意報の発令にとどまったにもかかわらず,500人以上が避難した石川県能登半島北部に位置する能登町松波地区とその周辺の津波浸水想定区域を含む地域を対象にアンケート調査を実施し,津波時の避難行動に対してどのように認知バイアスが影響を与えたのかに注目して調査・分析を行った.なお,調査対象地域周辺は2007年能登半島地震において震度6弱を観測している地域であり,東日本大震災後に改定された津波ハザードマップにおいて浸水対象地域とされている.
【調査結果】
アンケートは地区内の999世帯を対象に各世帯1部を郵送で配布・回収を行った.回収数は255(25.5%)であり,男性55%(N=141),女性40%(N=103),その他4%(N=11)であった.年齢別では世帯代表に回答を依頼したことに加え, 50%近い地域全体の高齢化率を反映して,60歳以上の高齢者が65%(N=165)を占めた.
避難行動の実態として,アンケートに回答した4人に1人が避難行動をとっていたことがわかった.回答者を「①能登半島地震時も山形県沖地震時も避難した」,「②能登半島地震時は避難したが山形県沖地震時は避難しなかった」,「③能登半島地震時は避難しなかったが山形県沖地震時は避難した」,「④能登半島地震時も山形県沖地震時も避難しなかった」の4パターンに分類すると,それぞれ①4%(N=9),②3%(N=6),③19%(N=43)④75%(N=174)となり,能登半島地震時には避難しなかった人が今回は避難したケースが一定程度認められた.すなわち,これらの住民は2007年から2019年の間に意識や環境を変化させていたことが考えられる.またこの中に自力避難困難者がいる家庭も含まれている(43世帯中15世帯)ことから,多少の無理をしてでも避難を行ったことが推測できた.
この③に該当した住民に注目して,避難をした理由を複数回答で尋ねると,「揺れから念のため(20人)」「情報から念のため(19人)」「浸水想定区域内にあるため(16人)」についで「避難するよう指導されたから(8人)」「近所の人が避難していたから(8人)」「誰かに言われたから(7人)」という回答が得られた.危機感や情報に加え,「周囲の人の避難行動・他人からの声掛け」といった「同調性バイアス」が働いていたことが確認できた.さらに,分類した①~④の中で同調性バイアスが働いていた人の割合が最も高かったのは③の該当者で,その割合は30%という結果であった.
【考察】
防災のコンテクストにおいて,同調性バイアスはしばしば正常性バイアスとともに,住民が避難をしない理由として取り上げられている.しかし,適切な働きかけを通して同調性バイアスを意図的に作用させることで,主体的に避難行動を起こさない人を避難させられる可能性があることを指摘することができる.このことからも,地域の防災力を高めていくにあたっての,緊急事態時に避難を呼びかける地域防災のリーダー的存在や日常的に住民同士の意思疎通ができる地域コミュニティといったソーシャルキャピタルの重要性が示されたと言えるだろう.
これから起こるとされている大地震や津波,その他災害への物質的な対策を実行することに加え,緊急事態時に我々人間が陥りやすい心理状況について個人が認識しておくことも,防災・減災において重要事項である.災害が多発する日本では,防災教育の必要性も指摘されており,それに伴う国民の防災意識の向上が期待されている.防災教育の一環として,認知バイアスについても学ぶ必要があるだろう.