17:15 〜 18:30
[HGM03-P04] 河川による内陸から海域への軽石の運搬過程:利根川における2019年台風19号の例
キーワード:漂着軽石、利根川、2019年台風19号
火山砕屑物(テフラ)の一つである軽石は,多孔質であるために水に浮くことがある.そのため,海域での漂流を経た軽石は「漂着軽石(漂流軽石)」と呼ばれ,海岸や地層中から発見・認定されてきた.地層中から見出された漂着軽石は,その産状から噴火直後に堆積したと推察されることが多い(例えば,豊藏ほか, 1991; 白石ほか,1992; 沢田ほか,1997; 青木・新井, 2000).一方,日本列島の現在の海岸には,海域や沿岸域での噴火活動がないにも関わらず漂着軽石が多数存在しており,それらの多くが九州地方南部の姶良カルデラや東北地方北部の十和田カルデラを給源とするテフラに同定された(平峰ほか,2020,地理学会要旨).九州地方南部では,姶良Tn(AT)テフラ(町田・新井,2003)の火砕流堆積物からなる火砕流台地が,海岸および河川沿いの侵食崖に広く露出している.そのため,平峰ほか(2020,地理学会要旨)は,陸域に分布する火砕流堆積物の二次的な海域への移動が,噴火の発生していない時期における海域への軽石供給の主要なメカニズムであると考えたが,一方で,分析を実施した軽石の約4割の給源が不明であった.これらの給源不明の軽石は,内陸部にのみに分布する比較的小規模な火砕流堆積物や降下軽石が,河川を通じて海域に流入したものである可能性が推定される.しかし,内陸部から海域への軽石の運搬が実証的に示された例はほとんどない.そこで,本研究では,上流部にのみ第四紀火山(浅間山,榛名山,赤城山など)とそれらの噴出物である軽石が分布する利根川の中〜下流域の複数地点において,2019年台風19号の通過直後に現地調査を実施し,台風19号時の増水によって高水敷に堆積したと考えられるデブリの中に含まれていた軽石の給源を検討した.
本研究では,群馬県渋川市渋川大崎(Loc. 1),埼玉県羽生市堤(Loc. 2),茨城県五霞町山王(Loc. 3),茨城県守谷市大木(Loc. 4),千葉県東庄町新宿(Loc. 5)の5地点において現地調査を実施した.採取した試料の一部については,火山ガラスの屈折率測定および主成分化学組成分析(EDS分析)を実施した.屈折率測定には,東京都立大学所有の温度変化型屈折率測定装置 RIMS2000(株式会社京都フィッション・トラック製)を,EDS分析には東京都立大学所有のエネルギー分散型X線分析装置Genesis APEX2(EDAX製)と走査電子顕微鏡JSM-6390(日本電子株式会社製)を使用した.
結果,Loc.1では51試料,Loc.2では22試料,Loc.3では17試料,Loc.4では17試料,Loc.5では3試料の軽石が存在していた.また,これらの軽石を,色・軽石表面の有色鉱物量・発泡の度合いなどの肉眼的特徴と鉱物組み合わせ,火山ガラスの屈折率測定結果から7グループ(グループA〜G)に分類し,1グループにつき1試料以上のEDS分析を実施した.各グループの特徴は以下の通りである.グループAはLoc. 1〜5の全地点で確認され,灰〜灰白色を呈し,ほとんどが水に浮いた.グループBはLoc. 1でのみ確認され,ほとんどが水に浮かず,軽石表面に有色鉱物が目立つ.重鉱物として,特徴的に角閃石含む.グループCはLoc. 2および4で確認され,特徴的に黄色〜オレンジ色を呈するものが多かった.グループDはLoc. 3および4で確認され,灰色を呈する.火山ガラスの屈折率がn=1.489–1.496と非常に低い値を特徴的に示した.グループEはLoc.1でのみ確認され,白〜灰白色,黄白色を呈し,全て水に浮いた.グループFはLoc. 3でのみ確認され,灰白色を呈し,水に浮かないことが特徴的であった.グループGはLoc.2でのみ確認され,黄色を呈し,水に浮いた.風化が進んでいるため非常に脆いことが特徴的であった.
Aoki (2020)による浅間山の第四紀後期以降のテフラに含まれる火山ガラスの主成分化学組成と比較した結果,グループA,D,F,Gは浅間山を給源とすると推定された.これら軽石の給源から,今回の台風による軽石の利根川への供給と運搬について考察する.浅間山から噴出した後期更新世以降の火砕流堆積物や降下軽石が分布する浅間山北部では,台風19号の降雨により,がけ崩れや土石流などが複数地点で発生したことが記録されている(国土交通省 総合災害情報システム(DiMAPS)).したがって,豪雨時のがけ崩れや土石流によって,谷や河川の流路沿いに分布する火砕流堆積物および降下軽石が河川へ供給され,それらが60〜250 kmほど下流側の利根川中流〜下流域へ運搬されたと考えられる.また,利根川は,日本列島の中で河川長が長く,緩勾配な蛇行河川帯を伴って海域に注いでいる.そのような河川においても,1回の増水により上流域から下流域へ運搬されたことが推定されたことは,日本に存在する火砕流堆積物および降下軽石の多くが,1度の増水で河川を通じて海域まで運搬され得ることを示唆している.
本研究により,内陸部から海域への軽石の運搬が実証的に確認されたことで,日本列島の内陸部に分布する軽石が,河川を通じて海域へ供給され,漂着軽石として現在の海岸で発見される可能性が示された.このような河川による軽石の運搬は,軽石が海域へと継続的に供給されるメカニズムの一つであると考えられる.また今後は,現在の海岸に分布する漂着軽石の対比候補に,局地的に分布する比較的小規模な火砕流堆積物および降下軽石も加えることで,給源不明の漂着軽石の起源が明らかとなり,さらに,漂着軽石の空間的分布の詳細が明らかとなると考えられる.
本研究では,群馬県渋川市渋川大崎(Loc. 1),埼玉県羽生市堤(Loc. 2),茨城県五霞町山王(Loc. 3),茨城県守谷市大木(Loc. 4),千葉県東庄町新宿(Loc. 5)の5地点において現地調査を実施した.採取した試料の一部については,火山ガラスの屈折率測定および主成分化学組成分析(EDS分析)を実施した.屈折率測定には,東京都立大学所有の温度変化型屈折率測定装置 RIMS2000(株式会社京都フィッション・トラック製)を,EDS分析には東京都立大学所有のエネルギー分散型X線分析装置Genesis APEX2(EDAX製)と走査電子顕微鏡JSM-6390(日本電子株式会社製)を使用した.
結果,Loc.1では51試料,Loc.2では22試料,Loc.3では17試料,Loc.4では17試料,Loc.5では3試料の軽石が存在していた.また,これらの軽石を,色・軽石表面の有色鉱物量・発泡の度合いなどの肉眼的特徴と鉱物組み合わせ,火山ガラスの屈折率測定結果から7グループ(グループA〜G)に分類し,1グループにつき1試料以上のEDS分析を実施した.各グループの特徴は以下の通りである.グループAはLoc. 1〜5の全地点で確認され,灰〜灰白色を呈し,ほとんどが水に浮いた.グループBはLoc. 1でのみ確認され,ほとんどが水に浮かず,軽石表面に有色鉱物が目立つ.重鉱物として,特徴的に角閃石含む.グループCはLoc. 2および4で確認され,特徴的に黄色〜オレンジ色を呈するものが多かった.グループDはLoc. 3および4で確認され,灰色を呈する.火山ガラスの屈折率がn=1.489–1.496と非常に低い値を特徴的に示した.グループEはLoc.1でのみ確認され,白〜灰白色,黄白色を呈し,全て水に浮いた.グループFはLoc. 3でのみ確認され,灰白色を呈し,水に浮かないことが特徴的であった.グループGはLoc.2でのみ確認され,黄色を呈し,水に浮いた.風化が進んでいるため非常に脆いことが特徴的であった.
Aoki (2020)による浅間山の第四紀後期以降のテフラに含まれる火山ガラスの主成分化学組成と比較した結果,グループA,D,F,Gは浅間山を給源とすると推定された.これら軽石の給源から,今回の台風による軽石の利根川への供給と運搬について考察する.浅間山から噴出した後期更新世以降の火砕流堆積物や降下軽石が分布する浅間山北部では,台風19号の降雨により,がけ崩れや土石流などが複数地点で発生したことが記録されている(国土交通省 総合災害情報システム(DiMAPS)).したがって,豪雨時のがけ崩れや土石流によって,谷や河川の流路沿いに分布する火砕流堆積物および降下軽石が河川へ供給され,それらが60〜250 kmほど下流側の利根川中流〜下流域へ運搬されたと考えられる.また,利根川は,日本列島の中で河川長が長く,緩勾配な蛇行河川帯を伴って海域に注いでいる.そのような河川においても,1回の増水により上流域から下流域へ運搬されたことが推定されたことは,日本に存在する火砕流堆積物および降下軽石の多くが,1度の増水で河川を通じて海域まで運搬され得ることを示唆している.
本研究により,内陸部から海域への軽石の運搬が実証的に確認されたことで,日本列島の内陸部に分布する軽石が,河川を通じて海域へ供給され,漂着軽石として現在の海岸で発見される可能性が示された.このような河川による軽石の運搬は,軽石が海域へと継続的に供給されるメカニズムの一つであると考えられる.また今後は,現在の海岸に分布する漂着軽石の対比候補に,局地的に分布する比較的小規模な火砕流堆積物および降下軽石も加えることで,給源不明の漂着軽石の起源が明らかとなり,さらに,漂着軽石の空間的分布の詳細が明らかとなると考えられる.