日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT13] Environmental Remote Sensing

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.11

コンビーナ:Wei Yang(Chiba University)、近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

17:15 〜 18:30

[HTT13-P01] Landsatを用いたインド西部の住民のナラティブに基づくマングローブ林の長期動態とフェノロジーに関する研究

*山本 凱1、大手 信人1、Chatterjee Ranit1、奈佐原 顕郎2、Pankj Sahjeevan4、Mehta Lyla3 (1.京都大学大学院情報学研究科、2.筑波大学生命環境系、3. Institute of Development Studies, Brighton, United Kingdom、4.Sahjeevan(NGO))


キーワード:リモートセンシング、NDVI、マングローブ、フェノロジー、土地被覆

インド西部グジャラート州カッチ県(Kutch)は乾燥・半乾燥気候下の環境であり,陸域生態系は耐乾性、耐塩性を持つ植物が優占する.このKutchの沿岸地域にはマングローブが生育しており,現地住民は木材、牧畜のため飼料、水産資源の供給などのために継続的に利用してきている.しかしながら,こうしたマングローブ林の生態系サービスは、沿岸域の塩田開発で消失したり、サイクロン、地震などといった自然災害によって攪乱を受けたりしている。生態系サービスの持続性を保ちながらマングローブ林を利用していくためには、このマングローブ林の動態と環境の変動に対する応答に関する知見を集積する必要がある。
本研究では過去30年程度の長期変動と季節変動を把握することを目的として、衛星画像を用いて次の3項目について解析した.1)当該地域のマングローブ林の長期的なバイオマスの変化.2)干ばつや乾燥がバイオマスにどのような影響を与えているか.3)その間、マングローブ林は、開発やその他の環境要因によってどこで拡大もしくは縮小しているか.
1)については,中程度の空間解像度を持つLandsat5, 7&8の画像を用いて,植物の活性度を示すとされる植生指標の一つであるNDVIをバイオマスの指標として計算し,マングローブ林の長期的な動態を調査した.2)については,当該地域の近辺の地域の降水量データを用いて,干ばつ・乾燥を測る指標であるSPI(Standardized Precipitation Index)を用いた評価を行なった.3)については1988年と2019年の2つの年についてピクセルベースの土地被覆図の作成・比較を行うことで当該地域のマングローブ面積の変化を評価した.
解析の結果,当該地域のマングローブ林は現在に至るまで長期的にはNDVIが増加しており,バイオマスの増加が示唆された.しかしながら,NDVIは単調に増加していたわけではなく90年代後半から2000年代前半にかけて減少していた.これは主な原因として90年代後半から2000年代前半にかけて降水量が少ない年が継続的に発生したことによる水ストレスの上昇が主要因である可能性が高い.一年程度の干ばつや乾燥では顕著なNDVIの変化が見られないことから,マングローブ林は乾燥・干ばつに対する一定のレジリエンスを持っており,継続的な乾燥がマングローブ植生に影響を及ぼすと考えられる.また,この30年間の長期的なマングローブ林のNDVIの上昇のトレンドの原因については、上記の期間以外での潤沢な降水量など、いくつかの要因が考えられた。
当該地域のマングローブ林のNDVIは乾季の中間(1月)から雨季が始まるまで単調に減少し,雨季が開始すると増加する季節性を持っていることがわかった.これは雨季の降水による塩分濃度に関連した水ストレスの緩和によってマングローブの葉の成長が促進される一方,乾季には反対に水ストレスが上昇することによって,葉の寿命や成長が低下することによって葉面積が少なくなったことが理由として考えられる.
マングローブにとっての水分条件の緩和には,雨による土壌への直接的な淡水の供給と,土内陸からの地下水の供給が考えられる.長期的なNDVIの変化とマングローブの季節性の変化と降水量の関係を鑑みると,こうした乾燥・半乾燥地域のマングローブの葉の成長に顕著に影響する一つの要因としては利用可能な水資源量が重要で、これの正確な把握が今後の課題といえる.
1988年と2019年の土地被覆図の比較の結果,マングローブ林が減少している主な要因は,潮汐による砂地の侵食と、海岸域の開発に伴う土地利用の転換であることがわかった.一方で,潮汐の影響を大きく受けない場所については生育範囲を広げているマングローブ林も観測された.全体では,マングローブ面積の増加と減少はほとんど同じであった.
自然要因として潮汐によってマングローブ林が消失していることは世界的にも発生しておりKutchについてもマングローブ林の保護のためには潮汐の影響を緩和する対策が必要である.
本研究のデータは,将来的な環境の変化への当該地域のマングローブ林の応答をモニタリングする上で有用である.これらのデータは現地住民やインド政府,NGOに提供され今後のマングローブ林の継続的な利用のための方針の策定に利用される.