日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 津波堆積物:東北地方太平洋沖地震後10年の成果と今後の展望

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)

14:45 〜 15:15

[MIS15-03] 2011年東北地方太平洋沖地震後の津波数値解析の進歩と津波堆積物研究における課題

★招待講演

*菅原 大助1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:波源推定、土砂移動数値解析、不確実性

波源像の推定やハザード評価といった津波数値解析は,防災対策における政策立案・合意形成で重要な役割を果たしてきた. 2011年東北地方太平洋沖地震の津波は想定外の災害をもたらした一方,津波数値解析を改善していくための貴重な教訓も残した.津波は,海水の打ち上げや陸上への浸水だけでなく,土砂の侵食・堆積,がれき等の漂流,構造物の損傷といった現象を伴う.津波ハザード評価の改善において,複数の物理過程とそれらの相互作用を考慮するマルチフィジックスモデルの開発は解決すべき課題である.その検証と妥当性確認は,東北沖地震・津波に際して得られた画期的な観測データに基づいて進められてきた.



津波数値解析は地震学・測地学・地質学・地形学・生態学・海岸工学・考古学・歴史学等の様々な分野の知見を繋ぎ,波源像を具体的に推定してきた.これまでによく用いられてきたアプローチは,津波によって運ばれた砂や巨礫等の古津波堆積物の分布と,数値的に再現した津波浸水域を比較する手法である.西暦869年の貞観地震津波等の古津波の波源モデルは,そのような比較に基づいて推定されてきたが,浸水域と堆積物分布域の乖離など,問題点も指摘されている.波源モデルのより良い推定において,土砂移動数値解析の適用は新しく有望なアプローチになると考えられる.これまでに行われた東北沖津波による土砂移動・地形変化の数値解析は,仙台湾や三陸沿岸の砂質津波堆積物の地質学的・地形学的特徴に物理的説明を与えてきた.そのことは,古津波研究における土砂移動数値解析の有用性を示している.西暦1867年の台湾北部基隆地震・津波の事例研究では,質・量とも限られた歴史・地質記録を解釈し,津波発生源の地震のメカニズムと規模を推定する上で津波土砂移動数値解析が大きな役割を果たしている.



津波数値解析の大きな課題は,不確実性の定量化と低減である.津波数値解析の不確実性には,入力データ,定式化,モデルパラメータ等,様々な要因が存在する.古津波の土砂移動数値解析では,入力データによる不確実性には,当時の海底・陸上の地形に加え,植生・堆積物の供給源と粒度組成・潮位等が関係する.既往研究による津波土砂移動数値実験は,津波当時の海岸砂丘の高さをどのように見積もるかにより,計算で再現された陸上津波堆積物の層厚や分布範囲が大きく変化する可能性を示している.古津波研究において津波数値解析の活用を図るためには,不確実性を定量化するための体系的な枠組みが必要である.不確実性の定量化は,諸要因による解析結果の変動幅を明らかにするものであり,数値解析の結果を津波堆積物データと比較する際に有益である.古津波の数値解析の不確実性を低減していくためには,古地形の復元に加え,海岸環境の長期変化,海岸地形の年・季節変動,人為的土地改変などのバックグラウンドデータの収集が不可欠である.