日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 化学合成生態系と泥火山:流体噴出の生物・化学・物理プロセス

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、座長:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)

11:15 〜 11:30

[MIS21-03] 13Cトレーサー実験による酒田沖海底堆積物の好気・嫌気メタン酸化微生物の推定とメタン酸化ポテンシャルの評価

*宮嶋 佑典1、吉岡 秀佳1、青柳 智2、堀 知行2、高橋 浩3、鈴村 昌弘2 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ、2.産業技術総合研究所環境創生研究部門、3.産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門)

キーワード:好気的・嫌気的メタン酸化、古細菌、細菌、13Cトレーサー、脂質バイオマーカー

海底表層の微生物によるメタン酸化は、地下で生成したメタンが海洋や大気へ放出するのを抑制する重要な役割を果たしている。海底面へ移動してきたメタンの最大80%が、好気性または嫌気性のメタン酸化微生物によって消費されている(Reeburgh, 2007; Boetius and Wenzhöfer, 2013)。メタン酸化に関与する微生物を解明しそれらの活動を評価することは、メタンハイドレート賦存域における微生物の多様性やメタンフラックスを明らかにするうえで重要である。しかしながら、海底表層堆積物中の好気性および嫌気性メタン酸化微生物両者の活動を調べた例は少ない。また、堆積物中の微生物の群集構造や分布を調べるツールとして、脂質バイオマーカーが有用であるが、それらは起源微生物、特に好気的メタン酸化細菌に明確に結び付けられていない (Rush et al., 2016など)。

本研究では、遺伝子解析、脂質バイオマーカー分析、および13Cラベル化メタンを用いた培養実験を組み合わせることで、日本海東縁酒田沖のメタン湧水堆積物中の好気的・嫌気的メタン酸化微生物とそれらの活動を調べた。分析には、微生物マットで覆われたサイトにおいて採取されたプッシュコア試料を用いた。海底下0~10 cmの堆積物を13Cメタンの存在下、好気および嫌気条件でそれぞれ100日間以上、4℃で培養した結果、両条件において13Cメタンの酸化による溶存無機炭素への13Cの取り込みが見られた。同一の堆積物中で好気的・嫌気的メタン酸化の両方が見られたという結果は、いずれか一方が優占するという泥火山堆積物での実験結果と異なっており (Niemann et al., 2006)、調査地点における海底面上部へのメタンフラックスを見積もるうえで重要な知見である。嫌気的メタン酸化は、海底下深度10~14 cmの堆積物でも検出されたが、13Cの取り込みははるかに遅い速度であった。堆積物中の古細菌および細菌の16S rRNA遺伝子を対象とした微生物群集構造解析を行った結果、嫌気的メタン酸化古細菌グループのANME-1が高頻度に検出された。ANME-1の相対存在量は全微生物群集構造のうち表層(海底下0~4 cm)では5%以下であったが、海底下10~14 cmでは50%以上に優占した。脂質バイオマーカーは、ANMEグループを含む古細菌に特徴的に含まれるアーキオールやヒドロキシアーキオールが、表層(海底下0~4 cm)の堆積物中で微量に検出された。同じ堆積物の全抽出脂質の一部を過ヨウ素酸で処理したところ、好気的メタン酸化細菌をはじめとする細菌に特徴的に含まれる、バクテリオホパンポリオールの分解産物が得られた。今後より深部の堆積物中の古細菌、細菌由来の脂質の分析を進め、それら脂質への13Cの取り込みを明らかにすることで、どの脂質分子が遺伝子解析で見出されたメタン酸化微生物によって生成されたものかを特定していく。本研究の13Cトレーサー実験の結果は、メタンに富む堆積物、あるいは堆積岩中のメタン酸化微生物の群集構造や分布、活動を調べるうえで、脂質バイオマーカーの有用性を向上させるものである。


謝辞:本研究は経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一部として実施しました。