日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[M-ZZ48] 地質と文化

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、高橋 直樹(千葉県立中央博物館)、座長:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、高橋 直樹(千葉県立中央博物館)

12:00 〜 12:15

[MZZ48-06] 瀬戸内地域の花崗岩製石造物の、山陰-北陸地域における分布と時代変化

*先山 徹1 (1.NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

キーワード:花崗岩、石材、歴史学、帯磁率

瀬戸内海地域には多くの花崗岩石材産地がある。それらは特に江戸時代~明治時代に発達した北前船による交易で日本海沿岸の各地に運ばれたことが知られ、その多くは船主等が寄進した石灯篭、狛犬、鳥居などとなって各地の神社に残されている.また、それ以前の中世(鎌倉時代~安土桃山時代)には主として宝篋印塔や五輪塔など権力者の供養塔などに花崗岩の石造物が見られる。それらには地元産の花崗岩類が使用されることもあるが、瀬戸内地域から運ばれたと考えられる石材もある。筆者はこれまで山陰~北陸地方の石造物を中心に、花崗岩石造物の産地同定をおこなってきた。本報告では、現時点での日本海沿岸地域に分布する歴史的石造物の分布をまとめ、その変遷を考察する。

花崗岩石材の産地同定については、その帯磁率と岩相を比較することである程度可能である(先山,2013)。山陰~北陸地域の石造物を構成する花崗岩類のうち、帯磁率の高い(一般に5×10-3SIより高い)ものはIshihara(1977)による山陰帯の花崗岩に属し、低いものは山陽・領家帯に属すると考えられる。山陽・領家帯起源と考えられる花崗岩については、岩相と帯磁率から、現時点で大きく以下のように分けられる。

岩相A:カリ長石が淡桃色を呈する中粒黒雲母花崗岩。カリ長石は他形~半自形で他の鉱物に対して間隙充填状に産するのが特徴である。帯磁率は1~3×10-3SIのものが多い。おそらく兵庫県南部の六甲山系から産する花崗岩がこれに相当すると考えられる。
岩相B:中粒角閃石黒雲母花崗岩。長軸最大3㎝程度の白色カリ長石斑晶、長軸最大1㎝の柱状角閃石を含み、しばしば苦鉄質包有岩を含む。帯磁率は1~3×10-3SI。尾道産花崗岩がこれに相当する。
岩相C:カリ長石が白色の中~粗粒黒雲母花崗岩。有色鉱物に乏しく、自形性の高い黒雲母が点在する。帯磁率は著しく低く、0.05×10-3SI前後のものが多い。これまで調査した中では香川県小豆島産、岡山県前島産のものがこれに相当する。
岩相D:中粒黒雲母花崗岩。岩相Bと似るが、より細粒で有色鉱物に富む。帯磁率は0.1~1.0×10-3SIの範囲に入る。この岩相に相当するものには、岡山県北木島、香川県与島、愛媛県伊予大島などがある。

石造物の分布状況は時代によって大きく異なる(図1)。1600年以前の中世石造物については、各地域で文化財として指定されているものを対象に調査した。これらの石造物で特徴的なのは、益田市とその周辺に多くの六甲山地の花崗岩製石造物が集中して見られることである。益田市より東部では六甲花崗岩を確認したのは、兵庫県豊岡市の宝篋印塔1基、京都府京丹後市の宝篋印塔1基のみであった。製造年が不明なため図には示していないが、それ以外の花崗岩は、京都府宮津市で宮津花崗岩製のもの、福井県小浜地域では地域南部に分布する白雲母花崗岩製のものが見つかるなど、いずれも地元産の石材が使用され、六甲山地以外の瀬戸内産花崗岩は確認できなかった。このようにみると、中世の頃には主として地元の石材が利用され、少なくとも花崗岩で見る限り広域的に流通したのは六甲花崗岩のみであった可能性が高い。
1600年以降、近世の江戸から明治にかけての北前船の時代になると、瀬戸内海地域の他の石材が加わる。さらに、1750年頃からは日本海側で採石された花崗岩が加わるようになった。それらの石材の移動は次第に広がり1850年頃にピークを迎えたが、六甲花崗岩の占める比率は減少していったことがわかる。