日本地球惑星科学連合2021年大会

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[O-07] 高校生ポスター発表

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.27

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(気象庁)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O07-P11] エウロパ着陸探査の検討

*伊藤 大地1 (1.清真学園高等学校・中学校)

キーワード:エウロパ、着陸探査、生命、探査機、宇宙探査、逆噴射

木星の衛星であるエウロパは,氷の表面の下に広大な海を持つと考えられている 。そのため近年の主要な宇宙生物学の研究対象として注目されている。NASAは2020年代に探査機を送り,エウロパで何度もフライバイをさせる予定である 。しかしながら着陸計画はまだない。そこで,着陸探査に焦点を絞り研究を行った。エウロパへの着陸探査は生命の本質ついての決定的な情報をもたらし得ることからも本研究は非常に重要なものと考える。
〈目的〉
 エウロパの大気は非常に希薄である。そのため着陸を考える際パラシュートを用いることができないと考えた。ゆえに本研究の目的は,宇宙生物学的探査のために,逆噴射による軟着陸の方法を検討することである。検討する上で設定した仮定を以下に示す。
[仮定]
着陸機は母船に搭載され,エウロパ上空20kmで切り離される。 搭載エンジン:ヒドラジンスラスタ (比推力 :220~235秒程度) 母船から初速度0m/sで切り離された着陸機は自由落下を開始し,ある地点から逆噴射を開始して地表で速度が再び0m/sになる。 着陸機は鉛直方向にのみ運動する。 推力 ,有効排気速度 ,推進剤質量流量 は一定とする。
〈方法〉
 ロケットの打ち上げでは,初速度0の物体を噴射によってある速度まで加速させる。対して着陸機の逆噴射では,ある速度の物体を噴射によって速度0まで減速させる。すなわち,軟着陸は着陸の逆再生と考えることができる。この類似性から,ロケットの打ち上げに関係するツィオルコフスキーの公式を応用することで,軟着陸に必要な関係式を導出できないかと考えた。

ΔV=c ln(1/μ)

ただし,ΔV:ロケット噴射による速度変化,c:有効排気速度,μ:質量比 を表す。
また,得られた関係式を基に具体的な条件を入力し,グラフを作成した。

〈関係式〉
g:着陸対象の重力加速度
m_Max:着陸機の最大質量
μ:着陸機の質量比
c:スラスタの有効排気速度
F:スラスタの推力
とすると,

合計落下高度:x_total=c^2/F*m_Max(μ ln(1/μ)-(1-μ))+c^2/2g*(ln(1/μ))^2
逆噴射開始高度:x_jet=c^2/F*m_Max (ln(1/μ)-(1-μ)-m_Max/2F*g(1-μ)^2 )
自由落下高度:x_free=1/2g*(c ln(1/μ)-(c m_Max (1-μ))/F* g)^2
合計落下時間:t_total=c/g*ln(1/μ)
逆噴射時間:t_jet=(c m_Max (1-μ))/F
自由落下時間:t_free=c/g ln(1/μ)-(c m_Max (1-μ))/F
逆噴射開始速度:v_Max=c ln(1/μ)-(c m_Max (1-μ))/F*g
〈結果〉
 逆噴射開始速度,逆噴射時間,逆噴射開始高度,自由落下高度,自由落下時間について,ロケットの性能との関係式をもとめ,そこから合計落下高度,合計落下時間を導いた。得られた関係式に基づき,近似値を二分法を用いて任意の精度で出力し,逆噴射・自由落下・合計それぞれの変位(高度)と時間,逆噴射開始速度を計算してグラフを描画するPython プログラムを作成した。仮に地球の重力加速度を9.8m/s2,エウロパの重力加速度を1.3m/s2,最大質量を500kg,比推力を220s,質量比を0.8,降下開始高度を20km,としてプログラムを実行すると,
F = 723.46875 ± 0.03125 [N] x_total = 19.9992723959987 ± 0.002981374671238882 [km] x_jet = 16.623466418409254 ± 0.0017754098712466657 [km] x_free = 3.3758059775894473 ± 0.0012059647999922163 [km] t_total = 370.0749974103356 [s] t_jet = 298.0087258810587 ± 0.012872391079497447 [s] t_free = 72.06627152927692 ± 0.012872391079469025 [s] v_Max = 93.68615298805997 ± 0.016734108403312575 [m/s]
という値のグラフを得る(fig1)。

以上の結果より,着陸機の性能を決定することで,どの高度で,いつ降下開始し,逆噴射を開始して地表に達するか定めることができた。