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[O07-P26] 土地利用、用水系統、池干しに着目したため池の水質解析
キーワード:ため池、水質解析、土地利用、用水系統、池干し
【はじめに】
ため池では非灌漑期の水質改善や設備点検のために,一定期間水を抜く「池干し」がおこなわれている。私たちはこれまで,池干しがため池のリン循環に与える影響について二つの池の底泥を用いて比較研究してきた。しかし,ため池の水質に影響をあたる要因は池干し以外にも様々なものがある。そこで私たちは池干しに加え,集水域の土地利用と用水系統に着目しそれぞれがため池の水質について与える影響を総合的に明らかにすることを目的に研究をおこなった。
【方法】
調査対象は兵庫県南部の東播磨地域に位置するため池群である。まず,土地利用からため池を「山林型」,「水田型」,「住宅地型」の3つに分け,その中から池干しの実施状況などを考慮して30個のため池を選定した(図1)。そして,水質調査を灌漑期である8月と非灌漑期である12月におこなった。なお,12月には池干しをしている池や水位が低下している池では採水ができなかったため,19個のため池で調査をおこなった。調査項目はCOD,リン酸態リン,亜硝酸態窒素,アンモニウム態窒素の4項目とし,パックテストと,COD以外については吸光光度計を用いて測定した。
【結果と考察】
複数の水質項目に基づいてため池の水質を総合的に評価する際には,多変量解析が有効だといわれている。そこで,8月の調査結果についてクラスター分析をおこなった。クラスター分析には統計ソフト「College Analysis」を用い、類似度は標準化ユークリッド距離、クラスターの結合はウォード法によっておこなった。そして,クラスター分析の結果からため池を3つの群に分けた(図2)。各群のリン・窒素濃度,COD濃度の平均と(表1),土地利用・池干しの有無の内訳(表2)を調べたところ,リン・窒素濃度が高い群に属しているため池は,水田型で前年度にあたる2019年度に池干しをしていないため池が多かった。この原因としては水田への施肥と,池干しをしていないことで底泥からの溶出量が多くなっていることが考えられる。また,一般的に住宅地に位置するため池は生活排水の流入によりリン・窒素濃度が高くなるといわれているが,そのような傾向はみられなかった。これは下水道の整備が進み,ため池への生活排水の流入が減少したことが原因だと考えられる。また用水系統にも着目したが,同じ用水系統で,土地利用・池干しの有無の条件が同じでも違う群に属しているため池もあり,傾向はみられなかった。
次に,横軸に8月の濃度,縦軸に12月の濃度をとった散布図を作成し,8月と12月の結果を比較した。その結果CODは12月には8月と比べて大きく減少していた。このことから,8月にCODが多かったのは生物の内部生産の影響によるものと考えられる。また,リン酸態リンでは,8月に濃度が高かったため池では12月には大きく減少していた。これは非灌漑期には施肥をしないため,流入水のリン濃度が減少しているからだと考えられる。アンモニウム態窒素はほぼすべてのため池で濃度が減少していた一方で,一部のため池では亜硝酸態窒素の濃度が増加していた。これは,8月と12月とでは生物活動の違いにより窒素循環に変化が生じているからではないかと考えられる。しかし,8月に濃度が高かったため池ではアンモニウム態窒素濃度が10分の1ほどにまで低下しており,亜硝酸態窒素濃度も低下しているため,この濃度減少についてはリン酸態リンと同様に施肥の影響ではないかと考えられる。
【おわりに】
集水域の土地利用,池干し,用水系統の中では,ため池の水質には土地利用が与える影響がもっと大きく,用水系統の影響は小さいことがわかった。具体的には以下の4つのことがあげられる。
①東播磨地域においてリン・窒素濃度が高いため池は,集水域に水田を多く含み,前年度に池干しをしていない池が多い。これは,灌漑期の水田への施肥と底泥からの溶出量の増加によるものだと考えられる。
②下水道の整備が進みため池への生活排水の流入が減少したことで,一般的に水質が悪いとされている,住宅地に位置するため池のリン・窒素濃度は山林に位置するため池と大きくは変わらなかった。
③山林に位置するため池では池干しの有無に関わらずリン・窒素濃度は灌漑期・非灌漑期ともに低く,水質が安定している。
④用水系統が同じため池でも,リン・窒素濃度,CODは必ずしも同じようにはならない。
今後は,池干しをしていないため池の方が池干しをしている池より嫌気的な環境にあることを,溶存酸素濃度を測定して確かめたいと考えている。
ため池では非灌漑期の水質改善や設備点検のために,一定期間水を抜く「池干し」がおこなわれている。私たちはこれまで,池干しがため池のリン循環に与える影響について二つの池の底泥を用いて比較研究してきた。しかし,ため池の水質に影響をあたる要因は池干し以外にも様々なものがある。そこで私たちは池干しに加え,集水域の土地利用と用水系統に着目しそれぞれがため池の水質について与える影響を総合的に明らかにすることを目的に研究をおこなった。
【方法】
調査対象は兵庫県南部の東播磨地域に位置するため池群である。まず,土地利用からため池を「山林型」,「水田型」,「住宅地型」の3つに分け,その中から池干しの実施状況などを考慮して30個のため池を選定した(図1)。そして,水質調査を灌漑期である8月と非灌漑期である12月におこなった。なお,12月には池干しをしている池や水位が低下している池では採水ができなかったため,19個のため池で調査をおこなった。調査項目はCOD,リン酸態リン,亜硝酸態窒素,アンモニウム態窒素の4項目とし,パックテストと,COD以外については吸光光度計を用いて測定した。
【結果と考察】
複数の水質項目に基づいてため池の水質を総合的に評価する際には,多変量解析が有効だといわれている。そこで,8月の調査結果についてクラスター分析をおこなった。クラスター分析には統計ソフト「College Analysis」を用い、類似度は標準化ユークリッド距離、クラスターの結合はウォード法によっておこなった。そして,クラスター分析の結果からため池を3つの群に分けた(図2)。各群のリン・窒素濃度,COD濃度の平均と(表1),土地利用・池干しの有無の内訳(表2)を調べたところ,リン・窒素濃度が高い群に属しているため池は,水田型で前年度にあたる2019年度に池干しをしていないため池が多かった。この原因としては水田への施肥と,池干しをしていないことで底泥からの溶出量が多くなっていることが考えられる。また,一般的に住宅地に位置するため池は生活排水の流入によりリン・窒素濃度が高くなるといわれているが,そのような傾向はみられなかった。これは下水道の整備が進み,ため池への生活排水の流入が減少したことが原因だと考えられる。また用水系統にも着目したが,同じ用水系統で,土地利用・池干しの有無の条件が同じでも違う群に属しているため池もあり,傾向はみられなかった。
次に,横軸に8月の濃度,縦軸に12月の濃度をとった散布図を作成し,8月と12月の結果を比較した。その結果CODは12月には8月と比べて大きく減少していた。このことから,8月にCODが多かったのは生物の内部生産の影響によるものと考えられる。また,リン酸態リンでは,8月に濃度が高かったため池では12月には大きく減少していた。これは非灌漑期には施肥をしないため,流入水のリン濃度が減少しているからだと考えられる。アンモニウム態窒素はほぼすべてのため池で濃度が減少していた一方で,一部のため池では亜硝酸態窒素の濃度が増加していた。これは,8月と12月とでは生物活動の違いにより窒素循環に変化が生じているからではないかと考えられる。しかし,8月に濃度が高かったため池ではアンモニウム態窒素濃度が10分の1ほどにまで低下しており,亜硝酸態窒素濃度も低下しているため,この濃度減少についてはリン酸態リンと同様に施肥の影響ではないかと考えられる。
【おわりに】
集水域の土地利用,池干し,用水系統の中では,ため池の水質には土地利用が与える影響がもっと大きく,用水系統の影響は小さいことがわかった。具体的には以下の4つのことがあげられる。
①東播磨地域においてリン・窒素濃度が高いため池は,集水域に水田を多く含み,前年度に池干しをしていない池が多い。これは,灌漑期の水田への施肥と底泥からの溶出量の増加によるものだと考えられる。
②下水道の整備が進みため池への生活排水の流入が減少したことで,一般的に水質が悪いとされている,住宅地に位置するため池のリン・窒素濃度は山林に位置するため池と大きくは変わらなかった。
③山林に位置するため池では池干しの有無に関わらずリン・窒素濃度は灌漑期・非灌漑期ともに低く,水質が安定している。
④用水系統が同じため池でも,リン・窒素濃度,CODは必ずしも同じようにはならない。
今後は,池干しをしていないため池の方が池干しをしている池より嫌気的な環境にあることを,溶存酸素濃度を測定して確かめたいと考えている。