日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC33] 固体地球化学・惑星化学

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.24 (Zoom会場24)

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

14:00 〜 14:15

[SGC33-02] パイロライトモデルを応用した始源的マントルの強親鉄元素存在度の推定

*小木曽 哲1、石川 晃2、秋澤 紀克3 (1.京都大学、2.東京工業大学、3.東京大学)

キーワード:始源的マントル、強親鉄元素、白金族元素、初期地球

強親鉄元素(Ru, Rh, Pd, Re, Os, Ir, Pt, Au)は、地球内部ではそのほとんどが金属核に濃集しており、ケイ酸塩マントル中での存在度は極微量(µg/gレベル)である。しかし、極微量であるが故に、マントル中の強親鉄元素濃度は、金属相が関与する過程に敏感であり、地球形成時の核−マントル分離過程およびその後の核−マントル相互作用の実態などを解明する上で鍵となる。特に、核と分離した時点におけるマントルの強親鉄元素の濃度、すなわち「始源的マントル」における強親鉄元素存在度を正確に推定することは、マントルの化学進化の出発点を制約するという意味で極めて重要である。
 これまでの研究で始源的マントルの強親鉄元素存在度の推定に用いられてきたマントルカンラン岩は、Al2O3など部分融解によって取り去られる成分(メルト成分)に富む組成をもつものが大半である。なぜなら、部分融解を被っている度合いが低いほど、始源的な組成に近いと考えることができるからである。しかし、Al2O3に富むカンラン岩の多くが、実際はメルト成分に枯渇したカンラン岩(ハルツバーガイト)に玄武岩質メルトが後から付け加わる過程(refertilization)によってできたものであることが明らかになってきた ([1]など)。したがって、始源的マントルの強親鉄元素存在度をより正確に推定するには、ハルツバーガイトと始源的マントルから取り去られたと想定されるメルトとを混合させた組成を計算で求めるのがより良いと考えられる。これは、始源的マントルの主成分元素組成を推定するためにRinwgoodが提唱した「パイロライトモデル」([2]など)を強親鉄元素に適用することに他ならない。実際、主成分元素組成の場合は、パイロライトモデルによって推定された値が、始源的マントルの主成分元素組成として広く受け入れられている。これは、ハルツバーガイトの主成分元素組成に大きなばらつきがないこと、および、始源的マントルから取り去られたと想定されるメルトとrefertilizationで加わったメルトの主成分元素組成が(偶然にも?)ほぼ同じであること、など、いくつかの条件が揃っているからである。一方、強親鉄元素の場合は、ハルツバーガイトにおける濃度に二桁を超えるような多様性があるため、パイロライトモデル計算に用いるべき組成を選ぶこと自体が容易ではないが、二次的な過程で組成が改変された痕跡の少ないハルツバーガイトの組成から、ある程度の組成範囲を絞ることはできる。その組成に、MORB的な玄武岩質メルトを加えて「パイロライト的な強親鉄元素濃度」を見積もると、その相対濃度はコンドライト的な値にはならず、Pt, Pdに大きく枯渇したものになると予想される。このことは、始源的マントルの強親鉄元素相対濃度はコンドライト的、という従来の見方をくつがえすものである。
[1] Le Roux V., Bodinier J.-L., Tommasi A., Alard O., Dautria J.-M., Vauchez A., Riches A.J.V. 2007. The Lherz spinel lherzolite: Refertilized rather than pristine mantle. Earth Planet. Sci. Lett., 259, 599-612.
[2] Ringwood T.E. 1962. A model for the upper mantle. J. Geophys. Res. 67, 57-866.