日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 強震動・地震災害

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.18 (Zoom会場18)

コンビーナ:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)、座長:岡崎 智久(理化学研究所革新知能統合研究センター)、江本 賢太郎(東北大学大学院理学研究科)

16:00 〜 16:15

[SSS11-03] 弾塑性地震応答解析による地層不整形性・軟弱粘性土・連発地震に着目した2016年熊本地震における阿蘇カルデラ陥没メカニズムの解明

*中井 健太郎1、野田 利弘2、浅岡 顕3、福田 慎也1 (1.名古屋大学大学院工学研究科、2.名古屋大学減災連携研究センター、3.地震予知総合研究振興会)

キーワード:熊本地震、阿蘇カルデラ、地層不整形性、軟弱粘性土、連発地震、地震応答解析

熊本地震(2016)では,阿蘇カルデラ内の北西部に約10kmにわたる帯状の陥没性亀裂が発生した.熊本地震では最大震度7を観測する地震(前震と本震)が十分な時間を空けずに2回発生したが,陥没被害は本震直後に発生し,同程度の揺れであった前震の際には発生していないことが報告されている.熊本地震を引き起こした布田川断層帯が阿蘇カルデラ内にまでは達していないと考えられていたことから陥没性亀裂と布田川断層帯との直接的な因果関係は認められず,発生原因として,地下空洞の圧壊,地表地震断層,地盤深部における液状化が引き起こした大規模な地質学的ブロックの水平滑動,断層運動による地殻変動など様々に考えられてきた.しかし,断層運動や液状化の痕跡が見つかってはおらず,未だ原因の特定には至っていない.これに対し,安田・石川ら1), 2) は,陥没性亀裂のほとんどが約9000 年前に湖だった旧湖沼で出現したことを明らかにするとともに,室内試験結果から湖成堆積層が,大きな繰返しせん断応力を受けると急激にせん断剛性が低下する性質を持っているという事実を確認し,陥没被害の再現解析を行っている.しかしながら,阿蘇カルデラ内の湖成堆積層になぜ局所的かつ強い繰返しせん断が作用したのかについてまでは言及できていない.

本研究では,阿蘇カルデラ内での陥没性亀裂の発生メカニズム解明を目的に,阿蘇カルデラ内の旧湖底が形成する「地層不整形性」,またそれ上に堆積する「軟弱粘性土の存在」,ならびに熊本地震の特徴でもある「連発地震」に着目し,二次元弾塑性地震応答解析結果によりこれらが表層地震被害に及ぼす影響を調べた.用いた解析コードは,砂から中間土,粘土までを同じ理論的枠組で記述する弾塑性構成式(SYSカムクレイモデル3)を搭載した水~土連成有限変形解析コードGEOASIA4である.

地震応答解析から,以下の結論を得た.
(1) 地層不整形性を考慮すると,(a) 深部から浅部へと伝播する実体波の焦点効果,(b) 長周期な表面波の励起と滞留,(c) 実体波と表面波が表層の特定場所で起こす増幅的干渉(エッジ効果)が生じた.このため,波動伝播が複雑となり,地盤内の特定箇所で揺れが大きくなった.
(2) 湖成粘性土層は軟弱な状態にあったため,地震による繰返し載荷によって容易に平均有効応力が減少し(剛性が低下し),地盤の固有周期を増加させた.
(3) 前震によって固有周期が増加した地盤に対して,長周期成分を多く含む本震が連続発生したことによって,地震動の長周期成分が著しく増幅された.この長周期の大きな揺れが,表層における陥没被害を発生させた.
つまり,阿蘇カルデラの陥没性亀裂被害は,上記(1)(2)(3)のすべての複合的作用により発生したこと,換言すれば,いずれかの要因が1つでも欠けていれば発生しなかった可能性があることを解析的に示した.


1) 安田進, 島田政信, 石川敬祐, 野村勇斗, 熊本地震で帯状に陥没した阿蘇市狩尾地区の変状調査, 日本地震工学会第13回年次大会, 2-13, 2017.
2) 石川敬祐, 安田進, 勝山孝太, 野村勇斗, 2016 年熊本地震による阿蘇カルデラ内の湖成堆積物の軟化現象を考慮した残留変形解析, 第54回地盤工学研究発表会, 2019.
3) Asaoka, A., Noda, T., Yamada, E., Kaneda, K. and Nakano, M., An elasto-plastic description of two distinct volume change mechanisms of soils, Soils and Foundations, 42(5), 47-57, 2002.
4) Noda, T., Asaoka, A. and Nakano, M., Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating the SYS Cam-clay model, Soils and Foundations, 48(6), 771-790, 2008.