日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:30

[SVC27-P05] 霧島硫黄山の2018年噴火により生じた河川水汚濁問題のその後

*木川田 喜一1、山本 春香2 (1.上智大学理工学部、2.上智大学大学院理工学研究科)

キーワード:霧島火山、えびの高原硫黄山、水蒸気噴火、水質汚濁、ひ素、湯だまり

2018年4月に250年振りに生じた霧島火山の硫黄山における噴火では,噴火に伴い新たに開いた火孔から継続的に鉛やひ素などの有害金属を高濃度に含む強酸性の熱水が大量に放出された.火孔からの熱水は河川によって運ばれて山麓の加久藤盆地へ至り,流域の農漁業に大きな影響を与えた.火孔からの熱水の流出は長期にわたり,下流域における水質汚濁問題は噴火から3年を経て,ようやくほぼ収束するに至った.本研究では,硫黄山の噴火に伴い生じた川内川水系の河川水汚濁について,噴火から現在までの経緯を振り返り,その総括を行うとともに今後の見通しについて報告する.

霧島硫黄山では2018年4月に,旧火口の南側と西側との2カ所で新たな火孔が開き水蒸気噴火が生じた.それぞれの火孔での噴火は1回ずつであったが,火孔から放出された大量の泥混じりの熱水が硫黄山西側の赤子川に流れ込み,合流先の長江川,川内川まで運ばれた.この際,川では魚の死骸が浮き上がり,流域では水稲を断念せざるを得なくなった.その後,何れの火孔も湯だまり状となり,その後もオーバーフローした大量の熱水が下流へと運ばれ続けたため,河川の水質汚濁は長期にわたることとなった.

2019年5月には赤子川において河川中和の実証試験が開始され,硫黄山の火孔からの熱水を含む河川水は全て中和施設を通して流下するようになった.河川水の中和は酸性度の低下により,金属イオンの溶解度を下げ,中和生成物を生じさせることで結果として有害成分濃度を低下させる.中和実証試験が開始された頃から下流河川の水質は大きく改善されており,一見すると河川中和の効果が現れたように見える.しかしその一方で,同時期には硫黄山の火山活動の低下に伴い,火孔湯だまりの酸性度も溶存成分濃度も低下し,さらには湯だまりからのオーバーフロー量も低下したため,下流河川の水質改善が河川中和の効果なのか,火山活動の低下によるものなのかは判然としない.しかし,宮崎県による河川水質のモニタリング結果[1]を見ると,2019年5月以降,下流域の河川水質に大きな変動は見られなくなっており,これは河川中和の効果と思われる.

2020年末現在,硫黄山の火山活動は小康状態にあり,火孔からの熱水のオーバーフローはほとんど見られない.また,硫黄山の下流域では,長江川下流,川内川の水質は安定的に環境基準値を満たしている.

[1] 「えびの市赤子川、長江川及び川内川の水質検査等の結果について」,
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kankyokanri/kurashi/shizen/ebino.html (2021年2月12日閲覧)