日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-02] 2011年東北地方太平洋沖地震から10年―地球科学の到達点

2021年5月31日(月) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、藤倉 克則(海洋研究開発機構 地球環境部門)、木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)、座長:小平 秀一(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)

14:57 〜 15:15

[U02-05] 地球惑星科学連合大会における「総合的防災教育」の歩み

★招待講演

*中井 仁1 (1.小淵沢総合研究施設)

キーワード:総合的防災教育、防災教育の普遍性と継続性、防災教育の体系化

東日本大震災は、地球惑星科学連合が関与するどの分野にとっても極めて大きな衝撃でした。その衝撃のあり方は分野ごとに異なりますが、教育分野においては防災教育が十分ではなかったという衝撃でした。また一方では、避難訓練等を繰り返し実施していたお蔭で超巨大津波を、ほとんど犠牲者を出さずに切り抜けた学校が少数ながらあったことは、防災教育の有効性を克明に印象付けました。そのため、発災のショックから立ち直った直後から関係者は一様に、体系的な防災教育の必要性を主張しました。しかしながら、その時点で、「体系的な防災教育」を具体的に思い浮かべることができた人は、著者を含めて皆無だったと思います。
 防災教育には継続性と普遍性という問題がつきまとっています。例えば火山災害を体験した地域であっても、火山が数百年ぶりに活発化するような場合、長い休止期間を通して被災状況を伝承するのは極めて困難です。阪神淡路大震災のような巨大災害の場合でも、発災から21年経った2016年の新聞記事には、「記憶の継承が課題」という文言がありました。また、災害を切掛けにして被災地以外でも防災教育が盛んに行われるようになったということはあまり聞きません。例えば、阪神淡路大震災の後、兵庫県では舞子高校に環境防災科が設置されるなどしましたが、著者が勤務していた隣県の大阪府では特に防災教育に力を入れることはありませんでした。
 このように、防災教育には世代を超えて継続することの難しさに加えて、地域を越える普遍性をもたせようとすると、通り一遍の避難訓練に陥りかねない難しさがあります。このような難しさを踏まえた上で、著者とその協力者は原点に返って、そもそも防災に関して我々は何を教えられるのかを探ることにしました。そうして2012年のJpGU大会のパブリックセッションの一つとして「防災教育 災害を乗り越えるために私達が子ども達に教えること」を開催しました。このセッションは続いて2013年、2014年と三回開かれ、延べ17人の方に講演していただきました。各講師の分野は防災行政、災害法、学校教育、心理学、世界と日本の災害、地域防災、災害医療、地震・火山・津波など、多岐に亘っています。これらの講演を通して、防災に関する事柄は、概ね4つの領域に分類できることが分かってきました。それは、「災害のメカニズム」、「国・行政の役割」、「防災技術・工学」、そして「地域防災」です。各領域には、それぞれ多くの分野が含まれます。たとえば「災害のメカニズム」には、地震や火山活動、気象災害など、「国・行政の役割」には災害法、行政対応などがあります。これらの分野はそれぞれ独立に存在しますが、実は互いに密接に関係しあっています。その関係性を明示的に表すことができれば、これら4領域の集合体は「防災科学」と言える体系を形作ると期待されます。セッション提案の段階では、地球惑星科学の学会になぜ法律学者を呼ぶのかという声もありましたが、講演の後のアンケートでは、講演を聞いて防災を考えるには法律の知識が必要なことが分かったという声もありました。この感想は、体系的な防災知識の必要性を如実に語っています。
 2018年に著者は、パブリックセッションの講演録を基にして、体系的な防災教育についての教科書「教育現場の防災読本」を編集し出版しました。セッションで扱った分野以外にも防災関係の事項はたくさんあります。それらの分野については各分野の研究者に、出版の趣旨を説き、協力を要請しました。幸い多くの協力者を得て、最終的には37名の防災関係の研究者および教育者から原稿をいただくことができました。この書籍は、一つの到達点ではありますが、出発点でもあります。多くの人に利用されなければ出版の意味がありません。
 2015年からは、レギュラーセッション「災害を乗り越えるための総合的防災教育」を開催しています。今年で7回目、パブリックセッションからの通算ですと、節目の10回目に当たります。総合的と銘打っているのは、防災関係の4領域をすべて含むという意味です。地球惑星科学連合大会であるという制約はありますが、連合本来の分野である「災害のメカニズム」と関連付けた形でより広い分野から投稿されることを望んでいます。
 今年は、東日本大震災10周年の節目の年でもあります。政府の復興計画では、それぞれ5年間の集中復興期間、第1期復興・創生期間を経て、第2期復興・創生期間に入ろうとしています。被災地とその周辺地区以外では復興の現状は、コロナ禍や東京オリンピックなどの陰になって、広く報道されていません。そこで、本大会で「東日本大震災復興10年を語ろう」と題して、パブリックセッションを開催します。短い時間ですが、復興の現状に思いを致すきっかけになればと願っています。