日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[M-AG39] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (33) (Ch.33)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、コンビーナ:恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桐島 陽(東北大学)、座長:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

11:00 〜 13:00

[MAG39-P02] 赤城大沼におけるCs-137濃度の経時変化および深度分布のtime-fractional拡散モデルとの比較

赤崎 健太郎1、末富 英一1、岡田 往子2、鈴木 究真3、渡辺 峻3、*羽田野 祐子1 (1.筑波大学大学院システム情報工学研究科、2.東京都市大学原子力研究所、3.群馬水産試験場)

キーワード:福島事故、セシウム、拡散

赤城大沼(群馬県)は、平均滞留時間が2.3年の半閉鎖性カルデラ湖である。2011年8月に湖内に生息するワカサギから暫定基準値を超える640 Bq/kgの放射性セシウム濃度が検出されたことから、ワカサギや湖水について継続的なモニタリングが行われている。本研究は、古典的な拡散を拡張した、より一般的な拡散過程が扱えるモデル「時間についての非整数階拡散方程式」を用いて、赤城大沼の計測結果(経時変化および深度プロファイル)を再現することを目標とする。非整数階拡散方程式とは、時間についての微分階が0.6などの整数ではない値で、かつ空間については通常の拡散方程式と同様2階の微分をもつ式であり、連続時間ランダムウォーク(CTRW)を偏微分方程式で表した際に現れる。そのため特別な場合を除き、CTRWの性質である「過去の濃度が現在の濃度に影響を与える」性質を持ち、ファットテール(遠方や長時間後では古典的拡散モデルより濃度の減衰が遅くなる)を表すことができる。このような性質は環境汚染の観測値にしばしば見られる。そのため、非整数階拡散方程式は環境中の汚染物質のモデルとして試す価値があると思われる。

サンプリングされた湖水は、Suzuki et al. [1] , 渡辺 [2]のようにCs-137 はフィルター濾過された後、粒子態と溶存態に分離される。この2つの形態のCs-137計測値を、水深に対してプロットすると、互いに非常に異なる分布となるが、本研究は粒子態/溶存態のそれぞれの深度プロファイルは扱わず、両者の合算である全濃度を扱う。解はxとtについての変数分離によって求める。 xのみに依存する式, tのみに依存する式は分離定数を共通の固有値として持つ固有値問題となる。得られた解析解のうち、時間だけに依存する部分を下図に示す。解は計測値に合致するよう定数倍だけは調整している。時系列データは非整数階拡散方程式(階数0.68)により、よく再現されていることがわかる。実際には湖の状態は、季節や日内で大きく変動すると思われるが、本モデルはそのような詳細な変動まで再現することは目指さず、平均化された濃度の挙動を表すことによって長期的推移を推定することを目指している。

一方、深度プロファイルは、(変数分離後の)深さxにのみ依存する部分について実測値との比較を行った。境界条件としては、濃度が一定(ディリクレ条件)、フラックスが一定(ノイマン条件)、混合境界条件(ロバン条件)の3種類の解を求めた。今回新たに得られた知見は、t依存性からのみ決まるモデルパラメータの値を使えば、深度プロファイルもある程度、再現できたことである。

時間に関する非整数階拡散方程式は、通常の拡散方程式と、次のような関係がある。2002年Bulgakovらはチェルノブイリ事故後のロシア・ブリヤンスク地方のSvyatoe湖におけるCs-137濃度の10年にわたる変化が、半無限媒体の通常拡散の解により、おおよそ表せることを述べた[3]が, Bulgakovらが導いた式は本モデルの微分の階数が1/2の場合に相当する。また、CTRWについては湖の底泥内部における微生物による物質移動をモデル化する研究[4]がある。

[1] Suzuki, K. et al., Radiocesium dynamics in the aquatic ecosystem of Lake Onuma on Mt. Akagi following the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident, Sci. Tot. Env., 622–623 (2018) 1153–1164.
[2] 渡辺峻, 鈴木究真, 新井肇, 久下敏宏, 角田欣一, 森勝伸, 野原精一, 薬袋佳孝, 岡田往子, 長尾誠也, 赤城大沼におけるワカサギの放射性Cs濃度下げ止まり要因の究明に向けて, Proceedings of the 20th Workshop on Environmental Radioactivity, (2019) 84-89.
[3] Bulgakov, A.A. et al., J. Env. Radioact., 61 (2002) 41–53.
[4] Roche, K.R., Aubeneau, A.F., Xie, M., Packman, A.I., Anomalous Sediment Mixing by Bioturbation, American Geophysical Union, Fall Meeting 2013, abstract id. H21D-1091.