日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-02] ジオパークで学ぶ日本列島の特徴と地球・自然・人の相互作用(口頭招待講演)

2022年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、コンビーナ:横山 光(北翔大学)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、コンビーナ:佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:殿谷 梓(三好市役所ジオパーク推進室)、長尾 隼(栗駒山麓ジオパーク推進協議会)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、榊山 匠(四国西予ジオパーク推進協議会)

14:45 〜 15:15

[O02-06] カレンダープロジェクトを通じた地域の語りなおし

★招待講演

*大岩根 尚1 (1.株式会社musuhi)

キーワード:三島村・鬼界カルデラジオパーク、カレンダー、サステナビリティ

三島村・鬼界カルデラジオパークでは、配布しているジオパークカレンダーを通じて地域の中に「語りなおし」が起こっている。
 カレンダー自体は、地域おこし協力隊として着任した棚次氏が始めたプロジェクトで、地域の古い写真を集めて古老に話を聞き、思い出したことを語ってもらい記録したものを編集し、カレンダーに写真やエピソードを添えるものである。当時の写真と今の同じ場所の写真を並べ、変化を見てとれる構成になっている。
 白黒の写真は地味であり、他地域の人には簡単には魅力を感じにくいものでもある。だからこそ、例えば民宿の食堂に掲げてあるカレンダーの写真に対して「あれは何の写真なのか」という会話が交わされ、自然と当時の地域の姿が語り直される、ということが起こっている。
 島の古老の口から語られる「当時」は月に1-2回しか船が通っていなかった時代のこともある。島にあるものだけで生活のほぼ全てを成り立たせていた当時の生活の有様は、当たり前に地形や地質に適した植物を育て、育まれてきた文化の姿そのものでもある。自然にあるものを活用する知恵や大切に使うための考え方が詰まっていて、まさに「持続可能」そのものである。
 壮大な地形や美しい風景、地質学的に意味のある風景の写真は多くない。ジオストーリーや地質学的に重要な事象の解説を多数掲載しているわけでもない。しかしそれら一見地味な写真を通して、ガイド教育を受けているわけでもない古老の口から語られる当時の風景は、実感や感情がこもっていて、論理を超えて伝わる説得力がある。
 カレンダーを通じた語りなおしは、おそらく各家庭でそれぞれ起こっている。高齢のため島を離れて寝たきりで暮らしていたある古老は、カレンダーに掲載されている郷土菓子の写真を見て「あの餅が食べたい」と家族に要求した。家族がそれを作ると、懐かしがって喜んで食べたという。そしてその古老は、その数日後に亡くなった。
 ジオパークの活動を通じて、私たちが本当に引き起こしたい地域の変化とは、どんなものだろうか。この取り組みは、いわゆるガイドツアー等を通した経済的価値に置き換わるものではないが、それらを重視しすぎると取りこぼしてしまう地域の大切な記憶を後世に残すものとして大切にしたいと考えている。