日本地球惑星科学連合2023年大会

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[O-03] あなたは自然災害から生き残れますか?学校での学びで!

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:林 信太郎田口 康博山本 隆太(静岡大学地域創造教育センター)、髙橋 裕(豊島岡女子学園)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、田口 康博山本 隆太(静岡大学地域創造教育センター)、髙橋 裕(豊島岡女子学園)

09:03 〜 09:18

[O03-01] 「地理総合」で防災を学ぶ

★招待講演

*村山 良之1 (1.山形大学)

キーワード:誘因、素因、ハザードマップ、地形

・自然災害とは?
・防災とは?
・地理総合に求められる防災教育は?

 大雨や強い地震などによって,ケガをしたり,家や道路などが壊れたりして,身体や生活や社会活動に被害がおよぶ時,すなわち自然の作用が人々の防災力を上まわる時,自然災害が発生します。自然災害の被害を完全に食い止めることは難しくとも,被害を小さくすることは可能です。日本語の防災は,英語ではDisaster Risk Reductionといい,その意味で減災ということもあります。
 防災の取組には,時間軸で整理すると①災害が発生する前に備えること,②災害発生時に対応すること,③災害後に立て直すことが含まれます。またいずれの段階においても,個人や家族(自助),自主防災組織等の住民組織(共助),市町村・都道府県・国(公助)が取り組むことが求められます。時間軸と担い手の組み合わせは9通りあるということですが,たとえば,避難は主として②段階の自助の課題,堤防やダムの建設は①段階の公助の課題です。また,担い手の三者が連携して取り組むことも求められています。
 それらの実践的な防災の基盤として,災害発生機構に関する基礎的理解が必要かつ有効です。自然災害を数多く経験してきた日本では,古くから災害発生の原因に関する「災害論」が培われてきました。自然災害は,大雨や強い地震といった「誘因」と,(被災)地域の「素因」との兼ね合いで,被害の有無や軽重が決まるという見方です。素因とは,地形や地盤などの物理的条件群(土地条件)および経済力などを含む社会的条件群のことで,災害発生前からある(被災)地域における条件群を指します。大雨や強い地震を災害を起こすきっかけ(誘因)として捉え,自然現象だけでなく社会のありようも含めて,災害の発生機構(原因)を捉えるということです。
 防災教育は,一般に実践的防災についての教育を指しますが,防災基礎(災害の発生機構)に関する教育も重要です。学校の教科では,たとえば家庭科では実践的防災に関することを学ぶことができ,理科や社会科・地歴科では主に防災基礎について学ぶことが期待されます。地理(地理総合)では,防災が重要な柱の1つになっていますが,「素因」の土地条件のうちとくに地形と関連させたハザードマップ読図の学習が期待されます。そのための地図に関するスキルの獲得も望まれます。地形とは,地表の形状や起伏のことですが,たとえば,土地が高ければ洪水や津波で浸水しにくく低ければ浸水しやすいことは明らかです。その場所の地形は浸水深に決定的に重要です。土砂災害のリスクは斜面の傾斜などと直接関わります。地震の時に軟弱な地盤は揺れやすく頑丈な地盤は揺れにくいのですが,地表付近の地質は地形と強く関わっています。つまり,その場所と周辺の地形がわかれば,その場所の複数の災害リスクがかなりわかります。地形を踏まえることでハザードマップをより深く読めるようになり,その想定外についても考えられるようになります。地図の読み方(読図のスキル)だけでなく,実際に地域の様子を観察して考える地域調査はさらに有効でしょう。日本の多くの地域で,先人たちによる防災の努力があったことがわかるはずです。地理(地理総合)では,これらの学習によって,防災基礎と実践的防災を繋ぐ役割も期待されます。
参考文献:
宇根寛・村山良之 2021.地域の災害リスクをどう教えるか-地形を踏まえてハザードマップを読む- 科学 91(5) 444-448
村山良之・桜井愛子・佐藤健・北浦早苗・小田隆史・熊谷誠 2021.地形とハザードマップに関するオンライン教員研修プログラムの開発-学校防災の自校化のために- 季刊地理学 73 94-107