日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 圏外環境における閉鎖生態系と生物システムおよびその応用

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加藤 浩(三重大学 研究基盤推進機構 先端科学研究支援センター)、安部 智子(東京電機大学理工学部)、篠原 正典(帝京科学大学)、座長:加藤 浩(三重大学 研究基盤推進機構 先端科学研究支援センター)、安部 智子(東京電機大学理工学部)、篠原 正典(帝京科学大学)

14:30 〜 14:45

[HCG24-04] 閉鎖生態系における植物生産のエネルギーマネジメント

*地子 智浩1 (1.一般財団法人 電力中央研究所)

キーワード:再生可能エネルギー、蓄エネルギー、食料生産、植物工場

人工閉鎖生態系において、食糧生産、温度管理やその他の人間活動にはエネルギーが必要である。我々が扱いやすいエネルギーの形として電気があり、圏外環境に人工閉鎖生態系を構築するには太陽光発電の利用が、極地・乾燥地などに構築する際には太陽光発電に加えて風力発電の利用が想定される。これらのエネルギーを適切に入手、蓄積および利用するエネルギーマネジメントが人工閉鎖生態系の維持には不可欠である。なお、持続可能な人工閉鎖生態系を構築するには、系外とのエネルギーの交換が必須である。系外と物質およびエネルギーの交換がない孤立系においては、エントロピーの総和が増大するのみであるため、持続可能ではない。この点で深海は、海流のエネルギーを利用できる可能性があるものの、太陽光や風力を利用できないために、閉鎖生態系を構築することは比較的困難である。
地球上の系統電力に接続された地域においても、カーボンニュートラルの観点から化石燃料を消費せずに、再生可能エネルギーを利用することが求められている。本発表では、人工閉鎖生態系および地球上での再エネを利用した植物生産を行う際のエネルギーマネジメントの考え方を議論する。
 閉鎖生態系における食料生産で第一の選択肢は植物栽培である。月面農場WG検討報告書では、可視光を透過する素材を用いて太陽光を利用する、もしくは太陽光発電由来の電力を用いてLED等の人工光源を利用することを想定している。また、栽培品目の候補としてイネ、ジャガイモ、サツマイモ、ダイズ、トマト、キュウリ、レタスおよびイチゴを挙げている。これらでヒトが生きるのに必要なエネルギーを供給するためには70 m2以上の栽培面積が必要であり、この面積にLED光照射をするためには800 m2/人程度の太陽電池モジュールが必要となる。(PPFD600 µmol m-2 s-1で白色LED光を16h明期/8h暗期の周期で照射し、太陽光発電の設備利用率10%で計算)。ただし、圏外環境では太陽光発電の設備利用率はこの数倍にもなることが期待されるため、必要な面積は数分の一となる。
 地球上において、太陽光発電を利用して人工光植物栽培をする際には、発電量が変動することが課題となる。蓄電池を利用すれば、発電した電力をロスなく利用することができるが、蓄電池は高コストであるため、可能な限り発電量に合わせてエネルギー調整するべきである。従来の植物工場は、植物の成育に理想的な環境を一定に保つことを前提としていたが、植物栽培に悪影響を及ぼさずに電力消費を大きく変動させるノウハウが求められている。再エネ利用植物工場の実証事業では、発電量と電力使用量が同程度の条件で自家消費率は約70%であり、系統電力に頼らない完全なエネルギー自給自足はまだ達成できていない。また、ヒトの生活においても再エネ発電量が少ない時間帯には電力消費を抑えること(デマンドレスポンス)が求められている。人工閉鎖生態系でも発電できる時間帯を考慮して生活サイクルを検討するべきである。風力発電は、現状では太陽光発電より発電コストが高いが、時間帯による発電量のパターンが太陽光発電と異なる。時間帯による電力消費パターンに合わせて、太陽光発電、風力発電およびその他の発電手段をそれぞれ適切なサイズで組み合わせるベストミックスを設計するべきである。
 圏外においても地球上においても、上記のように太陽光発電や風力発電は発電量が時間帯によって変動し、それらを制御することは困難である。そのため、発電が不足する時間帯にエネルギーを利用するには蓄エネルギーの必要がある。エネルギーを最終的に熱として利用する場合には、発電の余剰を蓄熱しておくことがエネルギー貯蔵手段として蓄電池より低コストになりえる。しかし、蓄電池、蓄熱ともに長期間のエネルギー貯蔵においてロスが生じる。長期間の貯蔵時には変換時のエネルギーロスが大きくても、水素などの燃料電池を使うことが考えられる。また、最終的に動力としてエネルギーを利用する場合には、フライホイールに運動エネルギーとして蓄積する選択肢があり、これは無重力かつ真空の宇宙空間では貯蔵ロスの少ない蓄エネルギー手段となる可能性がある。蓄エネルギーの手法についても、求められる蓄エネルギーの量、種類および期間に合わせたベストミックスを考える必要がある。
現在の地球上のエネルギーマネジメントに目を向けると、エネルギー供給源と消費施設を一定の範囲でまとめて、エネルギーを地産地消するマイクログリッドという考え方がある。大規模発電所で発電して送電線を整備して送電するコストよりも再エネ発電設備を地域で管理することが低コストになれば現実的となる。また、モノの輸送にもコストがかかるため、食料生産も再エネを用いて消費地内で生産することが可能になれば、食料の地産地消も促進される。ヒトが住む地域、特に農山漁村におけるマイクログリッド化および食料の地産地消のための研究が進められており、これらの研究は人工閉鎖生態系構築にも応用できる可能性がある。