[M-IS20] 津波堆積物

[MIS20-04] トレンチ調査が明らかにした津波堆積物の複雑な層相と形成過程

*西村 裕一¹、高清水 康博²、石澤 尭史³、菅原 大助³ (1.北海道大学大学院理学研究院、2.新潟大学教育学部、3.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード：津波堆積物、トレンチ、古地震

北海道厚真町で津波堆積物の観察を目的としたトレンチ掘削を行った．厚真町を含む胆振地方東部では，1611年慶長三陸地震津波による津波堆積物が広く分布していることが明らかにされている（西村他，2023年JpGU）．トレンチは，広域調査の情報をもとに，津波堆積物の層厚が10-20cmの場所を選んで掘削した．トレンチの大きさは津波の浸入方向に沿って9m，直交する方向に6m，深さは約2mとした．最深部の年代は約3500年前（石澤他，2024年JpGU）で，泥炭中に17世紀から2700年前までの5層の火山灰層が含まれている．
　津波堆積物は主に淘汰の良い細粒砂で構成され，9m長の壁面では層厚は1cmから22cmの範囲で大きくばらつくことが確認できた．層厚のばらつきの一因は，侵食された泥炭ブロックが砂とともに堆積していることである．このブロックは大きなもので幅50cm，高さ20cmほどあり，複数の火山灰層が乱されない状態で含まれているものもある．トレンチ内では，津波堆積物の数cm下位にあるB-Tm火山灰が連続的に堆積していることから，津波がトレンチより海側で泥炭のブロックを削り取って内陸に運び上げる力を保持していたことが伺える．トレンチ壁面の一部では，津波堆積物に層理や級化構造が観察された．また，津波堆積物の粒径は，層厚が厚い地点ほど粗い傾向を示す．これは，地表の凹部を津波堆積物が埋めた後に，より細かい砂を多く含む飛砂に全体が覆われたと仮定すれば説明できる．実際，この地点では津波堆積物と上位にある1663年Us-b軽石層との間に土壌層がほとんどなく，津波堆積物は数10年間地表にさらされていたことが推測される．
　津波堆積物をトレンチで詳細に観察する機会は限られている．そのため，今回のトレンチ掘削は，年代決定手法の検証（石澤他，2024JpGU）や地中レーダーの実用化といった津波堆積物の調査研究手法の確認と開発にも活用した．また，地域防災への貢献を目指し，トレンチを見ながら住民向けの説明会を実施し，展示用剥ぎ取り標本を作成した．