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[O08-P54] 浜名川の渦は泡沫夢幻~千変万化する渦発生メカニズムの解明~
キーワード:海洋、地球環境、地理
1.動機
静岡県湖西市新居町の浜名湖に注ぐ浜名川の支流にあたる州崎川では、浜名湖の潮汐変化に伴う激しい流れ(以下、激流)の発生、さらに流向や流速の時間変化、中規模または小規模に大別できる2種類の渦の発生が確認できた。そのような特徴をもつ小河川において、津波や高潮による被害軽減という観点から中規模な渦に注目した。本研究は、浜名川の地形要因によって生じる潮位差拡大効果により渦の大きさが増大するという仮説の検証を目指した。
2.方法
検証は、以下の3つの実験及び調査で行った。1つめは、浜名川での現地調査である。2つ目は、 浜名川河口の流路を模した水槽による激流の再現実験 である。3つめは、河川シミュレーションソフトiRICを用いた数値計算である。
2-1.現地調査
現地調査では潮位と流速の時間変化、水深や微地形等の地形データを明らかにすることを目的として調査を実施した。2023年3月11日(小潮)と8月2日(大潮)の2回、浜名川や州崎川沿いの6地点において、24時間継続して基準からの潮位変化を計測した。次に、小型カプセルにひもをつけ川の中へ投げ入れ、10mを移動するのに要した時間から流速を算出した。さらに、河道内の浅瀬等の微地形や水深を魚群探知機の水深測定機能を用いて測定した。
2-2.水路模型による再現実験
浜名川河口の激流発生地点の流路を模した水路模型を木製板およびモルタルを用いて作製し、激流の再現実験を行った。水路模型で発生した渦の大きさと移動速度の定量化には、直径1cmの高弾性ゴムボール玩具を水面に浮かべ、その軌跡を動画で撮影し、画像処理ソフトウェアImageJで動画を画像化することで、渦の可視化を行った。
2-3.シミュレーションソフトを使ったシミュレーション
河川シミュレーションソフトウェアiRICを用いた2次元シミュレーションにより模型実験の妥当性検証と激流・渦の発生要因の検討を行った。数値計算には、現地調査で得られた水位や地形高、流速等のデータを用い、干潮時に対応する高流量、満潮時に対応する低流量の2パターンに分けて行った。なお計算条件は次の通りである。格子サイズ0.5m×0.5m、高流量:流量100m3/s、低流量:流量50m3/sである。また、高流量時に完全に露出する浅瀬を再現した。なお、流量は、川幅と水深および流速の積で計算して理論的に求めた。なお、数値計算の対象となる地形は激流発生地点の南北である。
3.結果と考察
3-1現地調査
激流発生地点の南北では、満潮と干潮のピークの時刻と潮位変化の大きさに著しい差異がみられた。これは、激流発生地点の南北をつなぐ流路が狭くなっていることに起因すると考えられる。また、渦発生地点に見られた浅瀬が、満潮時には水没し、干潮時には障害物として露出することが渦の発生に大きな影響を及ぼしていると推定された。
3-2再現実験
水路実験でも現地調査と同様に、渦の発生が確認された。しかし、流量によって渦の発生状況が変化したり、現地の渦とは異なっていた点があったりしたため、渦発生条件の解釈が課題である。また、高弾性ゴムボールにより渦の可視化には成功した。
3-3 iRICによるシミュレーション
高流量時では流れの川幅方向への偏りや比較的大きな渦が見られた。低流量時では比較的小さな渦と渦が流れに沿って移流される様子が見られた。
いずれの条件においても現地調査で見られた渦の様子と合致する結果が得られた。また、浅瀬の状態の差異によって流れの様子が大きく異なった。この結果は、現地調査で観察された渦の発生が川幅・流れ方向の2次元的な現象であることを示唆するとともに、本研究で激流・渦発生の主要因と推定された川幅の変化や浅瀬等の地形条件の重要性を理論的に支持する。
4.まとめ
以上の検証により、満潮と干潮時に浜名川の水深と川幅が変化することにより、渦の大きさが2種類存在すること、さらに、流路が狭まることによる潮位伝達の遅延により、潮位差が増大し、中規模な渦の発生に寄与することが示唆された。このことから浜名川の地形要因が渦の発生に大きく影響していることが示唆された。
5.今後の展望
今後、激流および渦の発生が、浜名川の塩分濃度や栄養分などの水平方向または鉛直方向の濃度勾配に及ぼす影響を明らかにしたい。さらに、津波などの非常事態時に浜名川流域への高潮被害を軽減させるために、必要な対策を明らかにすることで、防災への活用を目指す。
静岡県湖西市新居町の浜名湖に注ぐ浜名川の支流にあたる州崎川では、浜名湖の潮汐変化に伴う激しい流れ(以下、激流)の発生、さらに流向や流速の時間変化、中規模または小規模に大別できる2種類の渦の発生が確認できた。そのような特徴をもつ小河川において、津波や高潮による被害軽減という観点から中規模な渦に注目した。本研究は、浜名川の地形要因によって生じる潮位差拡大効果により渦の大きさが増大するという仮説の検証を目指した。
2.方法
検証は、以下の3つの実験及び調査で行った。1つめは、浜名川での現地調査である。2つ目は、 浜名川河口の流路を模した水槽による激流の再現実験 である。3つめは、河川シミュレーションソフトiRICを用いた数値計算である。
2-1.現地調査
現地調査では潮位と流速の時間変化、水深や微地形等の地形データを明らかにすることを目的として調査を実施した。2023年3月11日(小潮)と8月2日(大潮)の2回、浜名川や州崎川沿いの6地点において、24時間継続して基準からの潮位変化を計測した。次に、小型カプセルにひもをつけ川の中へ投げ入れ、10mを移動するのに要した時間から流速を算出した。さらに、河道内の浅瀬等の微地形や水深を魚群探知機の水深測定機能を用いて測定した。
2-2.水路模型による再現実験
浜名川河口の激流発生地点の流路を模した水路模型を木製板およびモルタルを用いて作製し、激流の再現実験を行った。水路模型で発生した渦の大きさと移動速度の定量化には、直径1cmの高弾性ゴムボール玩具を水面に浮かべ、その軌跡を動画で撮影し、画像処理ソフトウェアImageJで動画を画像化することで、渦の可視化を行った。
2-3.シミュレーションソフトを使ったシミュレーション
河川シミュレーションソフトウェアiRICを用いた2次元シミュレーションにより模型実験の妥当性検証と激流・渦の発生要因の検討を行った。数値計算には、現地調査で得られた水位や地形高、流速等のデータを用い、干潮時に対応する高流量、満潮時に対応する低流量の2パターンに分けて行った。なお計算条件は次の通りである。格子サイズ0.5m×0.5m、高流量:流量100m3/s、低流量:流量50m3/sである。また、高流量時に完全に露出する浅瀬を再現した。なお、流量は、川幅と水深および流速の積で計算して理論的に求めた。なお、数値計算の対象となる地形は激流発生地点の南北である。
3.結果と考察
3-1現地調査
激流発生地点の南北では、満潮と干潮のピークの時刻と潮位変化の大きさに著しい差異がみられた。これは、激流発生地点の南北をつなぐ流路が狭くなっていることに起因すると考えられる。また、渦発生地点に見られた浅瀬が、満潮時には水没し、干潮時には障害物として露出することが渦の発生に大きな影響を及ぼしていると推定された。
3-2再現実験
水路実験でも現地調査と同様に、渦の発生が確認された。しかし、流量によって渦の発生状況が変化したり、現地の渦とは異なっていた点があったりしたため、渦発生条件の解釈が課題である。また、高弾性ゴムボールにより渦の可視化には成功した。
3-3 iRICによるシミュレーション
高流量時では流れの川幅方向への偏りや比較的大きな渦が見られた。低流量時では比較的小さな渦と渦が流れに沿って移流される様子が見られた。
いずれの条件においても現地調査で見られた渦の様子と合致する結果が得られた。また、浅瀬の状態の差異によって流れの様子が大きく異なった。この結果は、現地調査で観察された渦の発生が川幅・流れ方向の2次元的な現象であることを示唆するとともに、本研究で激流・渦発生の主要因と推定された川幅の変化や浅瀬等の地形条件の重要性を理論的に支持する。
4.まとめ
以上の検証により、満潮と干潮時に浜名川の水深と川幅が変化することにより、渦の大きさが2種類存在すること、さらに、流路が狭まることによる潮位伝達の遅延により、潮位差が増大し、中規模な渦の発生に寄与することが示唆された。このことから浜名川の地形要因が渦の発生に大きく影響していることが示唆された。
5.今後の展望
今後、激流および渦の発生が、浜名川の塩分濃度や栄養分などの水平方向または鉛直方向の濃度勾配に及ぼす影響を明らかにしたい。さらに、津波などの非常事態時に浜名川流域への高潮被害を軽減させるために、必要な対策を明らかにすることで、防災への活用を目指す。