日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P56] 瀬戸川帯の付加体中に産する鉄丸石の微細構造観察

*高津 圭梧1 (1.静岡県立静岡高等学校)

キーワード:鉄丸石

【はじめに】鉄丸石とは,四万十帯の瀬戸川層群の付加体から産出する炭酸塩ノジュールの一種である(1)先行研究(1,2)によると,このようなノジュールは,泥などの堆積物中に生息していた生物に由来した生痕化石と考えられている.鉄丸石は菱鉄鉱(FeCO3)と石英を主要構成鉱物とし,黄鉄鉱を含む場合もある(1,2).また,高知県室戸の鉄丸石からは,方解石が報告されている(2).一方で,鉄丸石内部の微細組織や元素分布は未だ詳しく調べられていない.これらを調べることは,鉄丸石の形成過程の解明につながると期待できる.そこで本研究では,静岡県安倍川流域で採取した鉄丸石について微細構造観察と元素マッピングを行い,その形成過程を検討した.
【研究方法】本研究では,静岡県安倍川流域の河川敷で採取した直径6cm程度の球形の鉄丸石を試料に用いた.この試料のほぼ中心を通る断面で作製した薄片について,光学顕微鏡による観察を行った.さらに静岡大学理学部の電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM:JEOL JSM-IT700HR)とEDS分析装置(Oxford instruments Ultim Max 170)を用いて,微細組織観察と元素マッピングを行った.
【結果】本研究の鉄丸石試料では,その中心に直径1cm程度のフランボイダル状の黄鉄鉱が確認できた.また,中心以外の部分にもフランボイダル状や単独結晶として黄鉄鉱が点在していた.個々の黄鉄鉱の粒径は50μm程度であった.反射顕微鏡観察では,黄鉄鉱の他に粒径が50μm以下の粒子が数種類確認できた.これらの粒子は,元素マッピングの結果から,菱鉄鉱(Feに富み,Ca,Si,Sを含まない),沸石(Na,Al,Siに富み,Ca,Fe,Sを含まない),石英(Si以外を含まない)と考えられる.また,少量だがアパタイト(CaとPのみに富む)とみられる粒子も含まれていた.菱鉄鉱は主に球状であるが,リボン状や半月状の粒子もしばしばみられた.菱鉄鉱と黄鉄鉱はしばしば,面で接していた.方解石などのCaに富む炭酸塩は確認できなかった.これらの鉱物粒子の隙間を埋めるマトリクスは数μm以下の粒子によって構成され,これらの鉱物種は特定できていない.
 本研究の鉄丸石では,その内部に同心円状の構造や層理は見られなかった.フランボイダル状黄鉄鉱の周辺のマトリクスではFeが減少し,Siが増加していた.鉄丸石の表面から600μm程度の領域ではマトリクスのFeの増加,Cの減少と,黄鉄鉱量の著しい減少が確認できた.この変化は,内部が黒色の鉄丸石において,表面だけが茶褐色を呈する原因に関連する.鉄丸石にはしばしば外部につながる脈が見られ,この脈は主に石英で埋められていた.
【議論】本研究の観察から,鉄丸石の形成時に菱鉄鉱と黄鉄鉱が平衡共存できたと考えられる.25℃の海水環境中でのFe-O-S-C系のpe-pH図(3)によると,菱鉄鉱と黄鉄鉱が共存できるのは,海水よりもFe濃度が高く,pHが4-7,peが−2-0の比較的狭い範囲に限られる.このことから鉄丸石は,Feに富み,やや酸性で還元的な環境 (例えば海底熱水系の周辺) で形成したと考えられる.鉄丸石の表面付近の領域に見られたFeの増加・Cと黄鉄鉱の減少は,外部からの酸化によって黄鉄鉱と菱鉄鉱が分解し,赤鉄鉱が形成したためと考えられる.石英脈はこの表層付近の褐色部分を切っていることから,石英脈形成より先に鉄丸石表層の酸化がおこっていたと考えられる.
【謝辞】静岡大学理学部地球科学科の石橋秀巳准教授には,光学顕微鏡と電子顕微鏡による観察でお世話になりました.また,静岡大学の森英樹技術職員には鉄丸石の薄片試料を作製していただきました.本研究は,静岡大学FSS未来の科学者養成スクールの支援を受けて実施しました.
【引用文献】
(1)蟹江康光ほか(2012) 神奈川県博調査研報, 14, 93-102
(2)山本亮太ほか(2015)JpGU Meeting 2015要旨 (BPT24-P01)
(3)Qui et al. (2024)JGR, 129, e2023JB028101. https://doi.org/10.1029/2023JB028101