15:50 〜 16:10
[O09-06] 令和6年能登半島地震による隆起と過去の地震による隆起
★招待講演
2024年1月1日におきたM7.6の能登半島地震(以下,2024年能登半島地震)では,能登半島北部周辺海域の活断層の活動により地盤が大きく隆起し,海岸沿いでは浅海底が干上がる離水現象が生じた.岩礁や港湾の防潮堤壁面に固着した生物も離水によって死滅し,遺骸が残されている様子が観察された.また波食棚という海面付近に形成される平坦な岩礁の地形が離水した場所では,海成段丘の形成も確認された.これらの高度は,国土地理院による測地観測で明らかになった地盤の隆起量と調和的で,最も大きい隆起が観測された能登半島西部では,生物の遺骸や離水した波食棚の高さが平均海面から約4 mと最も高い(宍倉ほか,2024).この隆起は余効変動で若干もとに戻る動きもあるものの,2024年能登半島地震は地殻内地震のため,隆起の大部分はそのまま残る可能性が高い.つまり離水した生物遺骸や海成段丘は,侵食の影響を免れれば将来にわたって残されることになる.
実際に能登半島沿岸には,2024年能登半島地震が起きる前から,過去の隆起の痕跡として生物遺骸や海成段丘が観察されていた.つまり過去にも同様の地震が起き,隆起がくり返されていたのである.例えば2007年3月25日に能登半島北西部で発生したM6.9の地震では,最大50 cm程度の隆起があり,岩礁の固着生物の離水が確認された(Awata et al., 2008)が,同じ地域で約1000年前にも同程度の隆起で離水した生物遺骸が見つかっている(Shishikura et al., 2009).また2023年5月5日に能登半島北東部で起きたM6.5の地震では,最大で24 cmの隆起があり,同様に岩礁の固着生物の離水が確認された(宍倉ほか,2024).能登半島北東部では,1729年に被害記録のある歴史上の地震(推定M6.6〜7.0)でも隆起した可能性がある.同地域の沿岸にはこの地震と調和的な年代を示す離水生物遺骸が見つかっており,最大で80 cm程度の隆起が推定されている(Hamada et al., 2016).このように数10 cm〜1 m未満の隆起を伴うM7未満の地震が半島内各所で起きているが,2024年能登半島地震に比べて隆起は比較的小さく,その影響範囲は限られている.能登半島北部周辺海域の活断層おおまかに4つのセグメントに分けられる(井上・岡村,2010)が,これらの地震はセグメントごとに発生しているように見える.一方でセグメントが連動して規模が大きくなったのが2024年能登半島地震と考えられる.
海成段丘について注目すると,過去6000年以内に形成されたと推定される低位段丘が少なくとも3段(高位からL1〜L3面と呼ぶ)分布することが明らかになっている(宍倉ほか,2020).低位段丘は2024年能登半島地震で隆起した範囲とほぼ同じく,能登半島北部沿岸の東端から西端まで断続的に分布しており,見かけ上は全域で隆起したことを示している.またL1面の高度分布を見ると,最も高いのが能登半島西部であり,2024年能登半島地震による隆起が最も大きかった場所と一致している.つまり2024年能登半島地震と同様にM7後半に達する規模で大きく隆起する地震が,過去6000年以内に少なくとも3回起きていた可能性を示しており,2024年能登半島地震によりL4面が新たに形成されたことになる.各段丘面の年代は今のところまだ明確ではないが,平均的には千〜数千年の再来間隔で起きている.
以上のように能登半島で起こる地震には階層性があり,セグメント単位で起こるM7未満の地震では数10 cm〜1 m未満の隆起だが,セグメントが連動して千〜数千年程度の頻度で起こるM7後半に達する規模の地震では,大きく隆起して海成段丘が形成されていると考えられる.ただし前述のとおり低位段丘は分布が断続的であるため,同じ区分の面でも場所によって隆起のタイミングが異なる可能性も否定できないことから,過去の隆起が必ずしも2024年能登半島地震と同じパターンであったとは限らない.このため,まだ明確になっていない各段丘面の年代を解明していくことが今後の課題である.
Awata et al. (2008) Earth Planet, Space;Hamada et al. (2016) Tectonophysics;井上・岡村(2010)海陸シームレス地質図集「能登半島北部沿岸域」;Shishikura et al. (2009) Geophy. Res Lett.:宍倉ほか(2020)活断層研究;宍倉ほか(2024)第四紀研究
実際に能登半島沿岸には,2024年能登半島地震が起きる前から,過去の隆起の痕跡として生物遺骸や海成段丘が観察されていた.つまり過去にも同様の地震が起き,隆起がくり返されていたのである.例えば2007年3月25日に能登半島北西部で発生したM6.9の地震では,最大50 cm程度の隆起があり,岩礁の固着生物の離水が確認された(Awata et al., 2008)が,同じ地域で約1000年前にも同程度の隆起で離水した生物遺骸が見つかっている(Shishikura et al., 2009).また2023年5月5日に能登半島北東部で起きたM6.5の地震では,最大で24 cmの隆起があり,同様に岩礁の固着生物の離水が確認された(宍倉ほか,2024).能登半島北東部では,1729年に被害記録のある歴史上の地震(推定M6.6〜7.0)でも隆起した可能性がある.同地域の沿岸にはこの地震と調和的な年代を示す離水生物遺骸が見つかっており,最大で80 cm程度の隆起が推定されている(Hamada et al., 2016).このように数10 cm〜1 m未満の隆起を伴うM7未満の地震が半島内各所で起きているが,2024年能登半島地震に比べて隆起は比較的小さく,その影響範囲は限られている.能登半島北部周辺海域の活断層おおまかに4つのセグメントに分けられる(井上・岡村,2010)が,これらの地震はセグメントごとに発生しているように見える.一方でセグメントが連動して規模が大きくなったのが2024年能登半島地震と考えられる.
海成段丘について注目すると,過去6000年以内に形成されたと推定される低位段丘が少なくとも3段(高位からL1〜L3面と呼ぶ)分布することが明らかになっている(宍倉ほか,2020).低位段丘は2024年能登半島地震で隆起した範囲とほぼ同じく,能登半島北部沿岸の東端から西端まで断続的に分布しており,見かけ上は全域で隆起したことを示している.またL1面の高度分布を見ると,最も高いのが能登半島西部であり,2024年能登半島地震による隆起が最も大きかった場所と一致している.つまり2024年能登半島地震と同様にM7後半に達する規模で大きく隆起する地震が,過去6000年以内に少なくとも3回起きていた可能性を示しており,2024年能登半島地震によりL4面が新たに形成されたことになる.各段丘面の年代は今のところまだ明確ではないが,平均的には千〜数千年の再来間隔で起きている.
以上のように能登半島で起こる地震には階層性があり,セグメント単位で起こるM7未満の地震では数10 cm〜1 m未満の隆起だが,セグメントが連動して千〜数千年程度の頻度で起こるM7後半に達する規模の地震では,大きく隆起して海成段丘が形成されていると考えられる.ただし前述のとおり低位段丘は分布が断続的であるため,同じ区分の面でも場所によって隆起のタイミングが異なる可能性も否定できないことから,過去の隆起が必ずしも2024年能登半島地震と同じパターンであったとは限らない.このため,まだ明確になっていない各段丘面の年代を解明していくことが今後の課題である.
Awata et al. (2008) Earth Planet, Space;Hamada et al. (2016) Tectonophysics;井上・岡村(2010)海陸シームレス地質図集「能登半島北部沿岸域」;Shishikura et al. (2009) Geophy. Res Lett.:宍倉ほか(2020)活断層研究;宍倉ほか(2024)第四紀研究