日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[SVC27-P06] 磐梯山南麓に分布する流れ山の形成史

*古庄 航輝1小荒井 衛1 (1.茨城大学)

キーワード:磐梯山、岩屑なだれ、流れ山、地形判読、岩石学

磐梯山南麓の地質は,磐梯・猫魔火山を給源とするマスムーブメント堆積物の卓越により特徴づけられる.地形的特徴としては,南北約5km,東西約10kmにわたって分布する流れ山があげられる.これらの流れ山は大半が翁島岩屑なだれ(46kaに発生;山元・須藤,1996)によって形成されたと考えられている.一方で,給源山体近傍に全体の傾向から外れる小型の流れ山が存在することや(三村,1988;吉田,2013),翁島岩屑なだれ堆積物の上位に複数の岩屑なだれ堆積物が分布している(下位から磐根岩屑なだれ堆積物,古観音岩屑なだれ堆積物;千葉・木村,2001)ことが明らかになり,本地域の流れ山が複数回のイベントによって形成されたことが示唆されている.本研究では,流れ山をサイズの縦断分布特性に応じて分類し,岩石学的手法を用いて岩屑なだれ堆積物と対比することで,その形成史を明らかにした.また,給源について見解の一致をみない古観音岩屑なだれについて,岩石学的手法を用いて山体岩石との対比を試みた.
基盤地図情報の5mDEMを用いてCS立体図を作成し流れ山を判読した.また,そのサイズ(底面積,長径,短径)と給源からの距離との関係を調査した.結果として,磐梯山南麓に分布する流れ山の縦断分布特性は,大半が一様な傾向を示し,翁島岩屑なだれによる形成で説明可能だが,給源からの距離7000m以内の流れ山はその傾向から外れて小型であり,さらに,より小さい流れ山グループ(Sグループ)と比較的大きい流れ山グループ(Mグループ)に分類可能であった.
岩屑なだれ堆積物中の岩石と流れ山を構成する岩石との対比を目的とし,薄片観察と化学組成分析を行った.その結果,本地域に分布する岩屑なだれ堆積物3層は,SiO₂-TiO図やSiO₂-Fe*O/MgO図において異なる組成領域を示した.特に,古観音岩屑なだれ堆積物の組成領域は,小荒井・清水(1995)による山体岩石のデータと比較すると,SiO₂-Fe*O/MgO図において,猫魔火山を構成する岩石の内,カルクアルカリ系列にプロットされるものと一致した.各流れ山グループと比較するとMグループと磐根岩屑なだれ堆積物の組成領域が一致し,Sグループは磐根岩屑なだれ堆積物や古観音岩屑なだれ堆積物とは一致せず,翁島岩屑なだれ堆積物(7000m以遠の流れ山)の組成領域に包括された.
Mグループは,翁島岩屑なだれによる流れ山地形の縦断分布特性から外れて小型であり,岩石学的特徴や分布域が磐根岩屑なだれ堆積物と一致することから,磐根岩屑なだれによって形成されたと考えられる.一方,Sグループは,Mグループと比較してもさらに小型であるが,岩石学的特徴は磐根岩屑なだれ堆積物や古観音岩屑なだれ堆積物とは一致せず,翁島岩屑なだれ堆積物(7000m以遠の流れ山)の組成領域に包括される.千葉・木村(2001)は,翁島岩屑なだれによって形成された馬蹄形カルデラが再崩壊したことによる小規模な岩屑なだれ堆積物を報告している.この堆積物の確認されている地点はSグループの分布域とおおよそ一致しており,馬蹄形カルデラの再崩壊とそれに伴う小規模な岩屑なだれがSグループの形成要因であると考えられる.
また,猫魔火山を構成する岩石の内,カルクアルカリ系列にプロットされるものは猫魔ヶ岳周辺に分布しており(Kimura et al.,2001),古観音岩屑なだれは猫魔ヶ岳南側斜面を給源とすることが示唆された.

参考文献
Kimura, J.-I., Tanji, T., Yoshida, T. and Izumi,S.,2001,Geology and geochemistry of lavas at Nekoma volcano: Inmlications for origin of Quaternary low-K andesite in the north-eastern Honshu arc Japan.Island arc,10,116-134.
小荒井 衛・清水 順二,1995,テフロクロノロジーと岩石分析の組み合わせによる火山崩壊史の解明―磐梯火山の岩屑なだれの例―.第5回環境地質学シンポジウム論文集,353-358.
千葉 茂樹・木村 純一,2001,磐梯火山の地質と火山活動史―火山灰編年法を用いた火山活動の解析―.岩石鉱物科学,30,126-156.
三村 弘二,1988,磐梯火山の地質と活動史.地学雑誌,97,37-42.
山元 孝広・須藤 茂,1996,テフラ層序からみた磐梯火山の噴火活動史.地質調査所月報,47,335-359.
吉田 英嗣,2013,磐梯火山・翁島岩屑なだれを生じた山体崩壊量の再検討:1888年の崩壊との比較.地形,34,1-19.