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[O11-P11] 岐阜県福地地域から産出する微化石について
キーワード:微化石、福地、デボン紀
1.背景と目的
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地地域に分布するデボン系福地層では、床板サンゴ(Kamei, 1955)、層孔虫、貝形虫(Tanaka et al., 2019)などが岩石薄片や肉眼で報告されている。一方で、酸処理による微化石抽出は、放散虫やコノドント(Tsukada and Koike, 1997;Kurihara, 2004)をのぞき行われていない。これまでに、福地地域の石灰岩から酸処理により海綿骨針、コケムシ、貝形虫などを抽出した。海綿骨針は6軸骨針や3軸・8軸骨針などHeteractinida綱(以下、同綱)と形態的に類似している微化石を確認した。同綱はこれまで日本から報告されておらず、重要な知見となる可能性がある。本研究では、微化石を形態別に分類・定量し、福地地域のデボン紀における生物相を推定するとともに、現段階で確立されていない抽出条件(酢酸濃度・処理時間)について効率的な条件を検討することを目的とする。
2. 手法
本研究では、福地地域の地層分布地が天然記念物に指定されており、露頭への立ち入りが制限されているため、地権者の許可を得た上で、流域の沢から転石を複数回にわたり採取した。これらの試料に対し、以下の手順を実施した。
2.1 微化石の抽出
岩石を砕き、10%酢酸に50~144時間浸した。その後、メッシュのふるいで残渣を回収した。乾燥後は実体顕微鏡で微化石を観察・撮影を実施した。加えて、SEMを用いた撮影も行った。
2.2 海綿全体化石の探索
同綱は日本国内では報告がなく、骨針のみでは属・種レベルの同定は困難である。そこで、3.1節で骨針が検出された岩石の表面を重点的に観察し、全体構造を持つ海綿化石を探した。
2.3 微化石抽出方法の検証
2.1節の条件では微化石の抽出数にばらつきがあったため、抽出条件の検証を行った。仮説として、酢酸濃度が高く、浸す時間が長いほど石灰岩の浸食が進み、より多くの微化石が抽出されると考えた。そこで、2.1節より長い時間の検証もおこなった。
3.結果
3.1 抽出された微化石に関する結果・考察
採取した転石20個から595個の微化石が抽出された。この微化石を形態別に分類した結果(Fig.1)、Fig2の円グラフのようになった。分類不明には、形状や保存状態により種の分類が困難であったものを含めた(Fig.3)。
分類不明を除いた標本の中で最も多かったのは6軸海綿骨針であり、これらは同綱の骨針と形状が類似する。このことから、福地地域には同綱が生息していた可能性が示唆される。
3.2 海綿全体化石の産出に関する結果・考察
同綱の存在を示唆する骨針が抽出された岩石の表面を、ルーペおよび実体顕微鏡で観察したが、海綿全体の形態を保持した化石は確認できなかった。一方で、ハチノスサンゴなどの化石は岩石表面に観察された。海綿本体が発見されなかった理由として、死後に本体が分解し、骨針のみが堆積して化石化した可能性が考えられる。
3.3 微化石抽出方法に関する結果・考察
グラフ(Fig.4)に示す通り、10%酢酸に288時間浸漬した条件で最も多くの微化石が抽出され、仮説通り、高濃度・長時間の条件が効果的であることが示された。ただし、144時間処理との抽出個数差がわずか1個であったため、ある一定時間以降は酢酸が飽和し、微化石の抽出数に変化がなくなることが考えられる。
10%酢酸80mlが理論上溶解できる炭酸カルシウムは約7gであり、実際に石灰岩100gを144時間浸した際の溶解量は、その理論値とほぼ一致していた。また、144時間酢酸に浸した後の溶液を中和滴定した結果、酢酸がほとんど消費されていたことがわかった。これにより、10%酢酸80mlの条件では144時間前後浸すことが、短時間で多くの微化石を抽出できる条件ということがわかった。
4. 結論・展望
本研究では、福地地域で日本未報告の同綱が生息していた可能性が示唆された。しかし、海綿本体の化石は発見できなかった。今後、現在実装中の画像認識システムの導入により、微化石の見落とし防止を図り、さらなる研究の発展が見込まれる。今後はこの認識システムと連動したデータベース構築により、微化石の分類精度や比較研究の効率化が期待される。近年の研究(Isozaki, 2019)により、古生代の日本列島が南中国地塊の太平洋岸造山帯として成長したことが明らかにされている。これに対し、福地層を含む飛騨外縁帯は、北中国地塊や南中国地塊と直接的な関係を持たないことが知られている。今回検出された骨針が、デボン紀に一般的な同綱の Astraeospongium と同定された場合、中国北西部・新疆ウイグル自治区の報告(Pickett, 2007)との比較を通じて、飛騨外縁帯と他地塊との新たな地質学的つながりを示す可能性がある。
5. 参考文献
・栗原 (2004). 飛騨外縁帯のデボン系放散虫生層序. 地質学雑誌, 110(10), 620–639.
・束田・小池 (1997). 岐阜県上宝村のオルドビス紀コノドント. 地質学雑誌, 103(2), 171–174.
・Isozaki, Y. (2019). Early Paleozoic Japan and Greater South China. Island Arc, 28(3), e12296.
・Kamei, T. (1955). Favosites-based classification of the Fukuji Formation. Bull. Fac. Arts Sci. Shinshu Univ., 5, 39–67.
・Pickett, J. W. (2007). Astraeospongium from Late Devonian China. Mem. Assoc. Australas. Palaeontol., 34, 331–342.
・Tanaka, G. et al. (2019). Devonian ostracods from central Japan. Island Arc, 28, e12283.
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地地域に分布するデボン系福地層では、床板サンゴ(Kamei, 1955)、層孔虫、貝形虫(Tanaka et al., 2019)などが岩石薄片や肉眼で報告されている。一方で、酸処理による微化石抽出は、放散虫やコノドント(Tsukada and Koike, 1997;Kurihara, 2004)をのぞき行われていない。これまでに、福地地域の石灰岩から酸処理により海綿骨針、コケムシ、貝形虫などを抽出した。海綿骨針は6軸骨針や3軸・8軸骨針などHeteractinida綱(以下、同綱)と形態的に類似している微化石を確認した。同綱はこれまで日本から報告されておらず、重要な知見となる可能性がある。本研究では、微化石を形態別に分類・定量し、福地地域のデボン紀における生物相を推定するとともに、現段階で確立されていない抽出条件(酢酸濃度・処理時間)について効率的な条件を検討することを目的とする。
2. 手法
本研究では、福地地域の地層分布地が天然記念物に指定されており、露頭への立ち入りが制限されているため、地権者の許可を得た上で、流域の沢から転石を複数回にわたり採取した。これらの試料に対し、以下の手順を実施した。
2.1 微化石の抽出
岩石を砕き、10%酢酸に50~144時間浸した。その後、メッシュのふるいで残渣を回収した。乾燥後は実体顕微鏡で微化石を観察・撮影を実施した。加えて、SEMを用いた撮影も行った。
2.2 海綿全体化石の探索
同綱は日本国内では報告がなく、骨針のみでは属・種レベルの同定は困難である。そこで、3.1節で骨針が検出された岩石の表面を重点的に観察し、全体構造を持つ海綿化石を探した。
2.3 微化石抽出方法の検証
2.1節の条件では微化石の抽出数にばらつきがあったため、抽出条件の検証を行った。仮説として、酢酸濃度が高く、浸す時間が長いほど石灰岩の浸食が進み、より多くの微化石が抽出されると考えた。そこで、2.1節より長い時間の検証もおこなった。
3.結果
3.1 抽出された微化石に関する結果・考察
採取した転石20個から595個の微化石が抽出された。この微化石を形態別に分類した結果(Fig.1)、Fig2の円グラフのようになった。分類不明には、形状や保存状態により種の分類が困難であったものを含めた(Fig.3)。
分類不明を除いた標本の中で最も多かったのは6軸海綿骨針であり、これらは同綱の骨針と形状が類似する。このことから、福地地域には同綱が生息していた可能性が示唆される。
3.2 海綿全体化石の産出に関する結果・考察
同綱の存在を示唆する骨針が抽出された岩石の表面を、ルーペおよび実体顕微鏡で観察したが、海綿全体の形態を保持した化石は確認できなかった。一方で、ハチノスサンゴなどの化石は岩石表面に観察された。海綿本体が発見されなかった理由として、死後に本体が分解し、骨針のみが堆積して化石化した可能性が考えられる。
3.3 微化石抽出方法に関する結果・考察
グラフ(Fig.4)に示す通り、10%酢酸に288時間浸漬した条件で最も多くの微化石が抽出され、仮説通り、高濃度・長時間の条件が効果的であることが示された。ただし、144時間処理との抽出個数差がわずか1個であったため、ある一定時間以降は酢酸が飽和し、微化石の抽出数に変化がなくなることが考えられる。
10%酢酸80mlが理論上溶解できる炭酸カルシウムは約7gであり、実際に石灰岩100gを144時間浸した際の溶解量は、その理論値とほぼ一致していた。また、144時間酢酸に浸した後の溶液を中和滴定した結果、酢酸がほとんど消費されていたことがわかった。これにより、10%酢酸80mlの条件では144時間前後浸すことが、短時間で多くの微化石を抽出できる条件ということがわかった。
4. 結論・展望
本研究では、福地地域で日本未報告の同綱が生息していた可能性が示唆された。しかし、海綿本体の化石は発見できなかった。今後、現在実装中の画像認識システムの導入により、微化石の見落とし防止を図り、さらなる研究の発展が見込まれる。今後はこの認識システムと連動したデータベース構築により、微化石の分類精度や比較研究の効率化が期待される。近年の研究(Isozaki, 2019)により、古生代の日本列島が南中国地塊の太平洋岸造山帯として成長したことが明らかにされている。これに対し、福地層を含む飛騨外縁帯は、北中国地塊や南中国地塊と直接的な関係を持たないことが知られている。今回検出された骨針が、デボン紀に一般的な同綱の Astraeospongium と同定された場合、中国北西部・新疆ウイグル自治区の報告(Pickett, 2007)との比較を通じて、飛騨外縁帯と他地塊との新たな地質学的つながりを示す可能性がある。
5. 参考文献
・栗原 (2004). 飛騨外縁帯のデボン系放散虫生層序. 地質学雑誌, 110(10), 620–639.
・束田・小池 (1997). 岐阜県上宝村のオルドビス紀コノドント. 地質学雑誌, 103(2), 171–174.
・Isozaki, Y. (2019). Early Paleozoic Japan and Greater South China. Island Arc, 28(3), e12296.
・Kamei, T. (1955). Favosites-based classification of the Fukuji Formation. Bull. Fac. Arts Sci. Shinshu Univ., 5, 39–67.
・Pickett, J. W. (2007). Astraeospongium from Late Devonian China. Mem. Assoc. Australas. Palaeontol., 34, 331–342.
・Tanaka, G. et al. (2019). Devonian ostracods from central Japan. Island Arc, 28, e12283.
