公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

講演情報

一般口演

現地発表

一般口演11
症例

2024年7月7日(日) 14:10 〜 14:40 第3会場 (幕張メッセ国際会議場 2F 201)

座長:岡本 和彦(明海大)

[O2-8] 多数歯欠損の唇顎口蓋裂に対する長期補綴治療ーインプラント支台の有床義歯の有用性ー

*尾関 雅彦1 (1. 東京支部)

[Abstract]
【緒言】多数歯欠損と口蓋鼻腔瘻孔のある唇顎口蓋裂患者に対する長期間の補綴治療において,インプラント支台の有床義歯が有用であった症例を発表する.
【症例の概要・治療内容】
 症例の概要:初診時,26歳の女性.多数歯欠損と口蓋鼻腔瘻孔に対して可撤性床義歯で25年間対処したが,咬合咀嚼機能を十分に回復できなかった.最終的にインプラント支台のオーバーレイ義歯にしたことで口腔機能は良好に回復された.
 現病歴:幼少時から某大学形成外科にて顎裂閉鎖術と自家骨移植術を受けたが,顎裂と口蓋鼻腔瘻孔が残存した.上顎は齲蝕により多数歯欠損となった.
 初診時現症:上顎残存歯は6 5|4 5 6 |4 5 は残根.上顎前歯部の顎堤頂は下顎前歯切縁よりも20mm後方で,いわゆる下顎前突症の状態であった.パノラマX線写真で上顎前歯部に骨組織(骨橋)はなく,顎裂の状態であった.
 治療経過:1998年に6|6を支台歯とする金属床義歯を.また2004年12月に残根となった|4 5 6を抜歯後,2011年にエンジニアリングプラスティック素材(TUM)の床義歯を装着したが,いずれも義歯の維持安定性は不良で義歯安定剤を必要とした.2023年4月に直径3.7mmのHA coating implantを5 4|部に2本,|1 3 4 5 6 7部に6本埋入し,11月にAbutmentを連結した.12月に5 4|部は2本支台の連結冠と,|1 3 4 5 6 部は5本支台のミリングバーを支台装置とするインプラント支台のオーバーレイ義歯を作製装着した.
【経過ならびに考察】 摂取可能食品で咀嚼能力を評価する山本の咬度表では,旧義歯の2からインプラント義歯では5に改善した.またインプラント義歯では前歯部を正常被蓋(over bite:2mm)にしたことで上口唇の陥凹は改善し,スマイル時には審美的な上顎歯列に回復された.口蓋鼻腔瘻孔は栓塞子で閉鎖され鼻漏は解消した.本症例のように多数歯欠損と口蓋鼻腔瘻孔がある唇顎口蓋裂患者の補綴処置には,一般に有床義歯が適用されるが,少数残存歯や顎堤に支持・把持・維持を求める義歯では十分な口腔機能回復を得られないことも多い.このような補綴難症例に対して,インプラントを支台装置とする有床義歯は非常に有用性が高いことが示唆された.(本症例の発表については患者本人から同意を得ている.)