公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

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2024年7月7日(日) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際会議場 2F コンベンションホール B)

[P-93] 硬組織形成不全の発症機序解明に向けた試験管内ヒトiPS細胞由来硬組織構造体の作製

*近藤 威1、江草 宏1 (1. 東北大学大学院 歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野)

[Abstract]
【目的】
 患者の体細胞から作製可能な人工多能性幹細胞(iPS細胞)は多分化能を有し,様々な組織に分化する.そのため,患者の遺伝的特性を示す細胞の分化過程を試験管内で再現できる可能性があり,これまでいくつかの難治性疾患の原因究明や創薬に貢献してきた.低フォスファターゼ患者は骨形成不全に加え,セメント質や象牙質の形成不全による歯の形態異常を伴う1).しかし,ヒトiPS細胞から歯の三次元構造体を作製する方法は確立しておらず,硬組織形成不全の発症機序解明は難航している.本研究の目的は,硬組織形成不全の病態解析に資するヒトiPS細胞由来硬組織構造体の作製方法を確立することである.
【方法】
 デキサメタゾン,β-グリセロフォスフェートを含む硬組織分化誘導培地を用い,レチノイン酸(RA)添加,非添加群に分けて,健常者由来iPS細胞の振盪培養を行った.硬組織分化誘導開始0,10,20日後に細胞塊を回収し,Real time RT-PCR法を用いて硬組織に関する分子の遺伝子発現を評価した.また,von Kossa染色により,石灰化を評価した.同様に低フォスファターゼ患者由来iPS細胞をRA添加硬組織分化誘導培地で振盪培養し,硬組織細胞への分化および石灰化を評価した.
【結果と考察】
 健常者由来iPS細胞を硬組織分化誘導培地中で振盪培養した結果,骨芽細胞マーカー(RUNX2, OCN),象牙芽細胞マーカー(DMP1, DSPP),セメント芽細胞マーカー(WIF1, MSX1)の発現が継時的に上昇し,誘導20日後には高度に石灰化した三次元の構造体を形成した(図).また,これらの遺伝子発現はRA非添加群よりもRA添加群において有意に上昇した.低フォスファターゼ患者由来iPS細胞を用いて硬組織分化誘導を行った結果,健常者由来iPS細胞と比較して,硬組織分化マーカーの発現は有意に低く,弱い石灰化を示した(図).以上の結果から,RAを含む硬組織分化誘導培地で振盪培養することにより,ヒトiPS細胞から骨芽細胞,象牙芽細胞,セメント芽細胞を含む三次元硬組織構造体を誘導できる可能性が示唆された.本方法によって得られた硬組織構造体は,低フォスファターゼ患者などの硬組織形成不全の病態解明に貢献することが期待される.
【文献】
1) Mornet E. Hypophosphatasia. Metabolism 2018; 82: 142-155.