第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (運動器)

座長:西川仁史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0080] 腱板損傷術後患者の痛みと心理的因子の関連

高橋佳子, 平田淳也 (笠岡第一病院リハビリテーション科)

キーワード:破局的思考, 抑うつ, 腱板損傷

【はじめに,目的】
痛みは多くの人が経験する問題であり,肩関節に慢性痛を有する者は高齢者では7%~34%に及ぶ。Youngら(2012)は肩関節の慢性痛患者の痛みに抑うつや恐怖感といった心理的因子が影響を及ぼすと報告している。さらに近年ではこれらに加えて,痛みに対するネガティブな思考である破局的思考が注目されている。慢性痛を予防するためには急性痛のコントロールが重要であり,痛みの予測因子が抽出できれば効果的な介入が行える。心理的因子は急性痛患者にも影響があることが示唆されているが,肩関節疾患を対象とした報告は見当たらない。そこで本研究の目的は,腱板損傷術後患者における痛みと心理的因子の関連を検討することとした。
【方法】
対象は腱板損傷に対して当院で鏡視下腱板修復術を施行した3症例である。症例1は60歳代,女性。受傷機転は肩を強打し受傷。MRIにて棘上筋・肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。症例2は60歳代,女性。受傷機転は事故で肩を強打し受傷。MRIにて棘上筋・肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。症例3は60歳代,男性。受傷機転は特になく,徐々に疼痛出現し当院受診。MRIにて棘上筋・棘下筋腱の完全断裂,肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。これらの症例に対して,痛みを術後1週・2週・4週に評価し,破局的思考と抑うつを術後1週・2週に評価した。痛みの評価は,11件法numerical rating scale(以下NRS)を用いた。痛みの破局的思考は,Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)を用い,抑うつはPatient Health Questionnaire-9(以下PHQ)を用いた。それぞれ信頼性と妥当性が認められている。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣意を十分に説明し,文章にて同意を得た。なお,本研究は当院の倫理委員会にて承認を得ている(承認番号:88)。
【結果】
症例1:PCSは14点から32点と高値を示し,PHQは3点から9点と高値を示した。痛みは各時期6点で変化が見られなかった。
症例2:PCSは4点,0点と低値を示し,PHQはともに0点と低値を示した。痛みは術後1週において10点,2週・4週では1点,0点と低下した。
症例3:PCSは19点,21点と高値を示し,PHQは2点,4点と低値を示した。痛みは術後1週において5点であったが,2週・4週の各時期で0点と低下した。
【考察】
破局的思考は,痛みの強さに最も影響を与える因子であることが報告されている。症例1は破局的思考が高く,術後4週の時点で痛みの改善はみられなかった。また,症例2は破局的思考が低く,術後2週・4週の時点で痛みは大きく改善した。しかし,症例3では破局的思考が高いにも関わらず,術後2週・4週の時点で痛みは改善がみられた。これは先行研究と異なった結果を示しているが,Stevenら(2011)は,破局的思考と抑うつの交互作用について検討しており,両者が高い患者は痛みの強さは高いが,一方のみ高い傾向にある患者または両者とも低い傾向にある患者では痛みの強さが低いことを報告している。このことから症例3では破局的思考が高かったが,抑うつが低かったため痛みに影響を与えなかったのではないかと考えられた。これらのことから,腱板損傷の術後患者において痛みを予測する場合,破局的思考のみならず,抑うつについても評価していくことでより正確に予後予測が行える可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
腱板損傷術後患者に対して,破局的思考に加えて抑うつの評価も同時に行うことで痛みの予後予測を正確に行うことができ,痛みに対して効果的な介入が行えると考える。